Red Warrior Mechanic1 [Red Warrior]
Red Warrior in the Seed World
メカニック一覧(最新版)
(注1)◎ザフト軍製作のメカ・●地球連合軍製作のメカ・○オーブ連合首長国製作のメカ
(注2)モビルスーツ(MS):人型の機動兵器。エヴァと違い機械のみで出来ており、主にバッテリーで稼働する。
◇ザフト軍のメカ
●デュエルガンダム:イザークの愛機。汎用性の高いオーソドックスな機体。本機は「G」開発計画中最初期に設計された機体であり、他のGAT-X機のアレンジの基本形ともなっている。 それ故本機にはこれといった特徴が無く、他のGAT-X機に比べスペック的にやや見劣りしているようである。全高:17.50m。
[武装等]頭部75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」×2、175mmグレネードランチャー装備57mm高エネルギービームライフル、ビームサーベル×2、対ビームシールド、PS装甲
●バスターガンダム:ディアッカの愛機。遠距離の重砲撃戦を主に追求した機体。右腕のレールガン350mmガンランチャーは、多数の弾丸を広範囲にばら撒く面制圧用の武装である。左腕の94mm高エネルギー収束火線ライフルは、通常の艦砲をも上回る出力・射程を誇っている。 これら2つの砲は互いに連結させる事ができ、更に威力を倍化させる事が出来る。ライフルを前に組んだ場合は、超高インパルス長射程狙撃ライフル、逆にランチャーが前の場合は対装甲散弾砲をいう2パターンに組み替えられる。 全高:18.86m。
[武装等]・350mmガンランチャー(右砲)、94mm高エネルギー収束火線ライフル(左砲)、220mm径6連装ミサイルポッド×2、PS装甲
●ブリッツガンダム:ニコルの愛機。動きの素早さを主に追求した機体で地上における近接格闘戦を想定して設計をしている。また一定時間、機体を透明にし、レーダーにも反応しない特殊装備(ミラージュコロイド)をもっている。PS装甲を採用し、ビーム以外の実体弾に絶大な防御力を持っている。全高:18.63m。
[武装等]攻盾システム<トリケロス>(ビームサーベル・50mm高エネルギーレーザーライフル・3連装超高速運動体貫徹弾「ランサーダート」)、ピアサーロック「グレイプニール」、PS装甲
●イージスガンダム:アスランの愛機。宇宙、空中での高速戦闘能力に優れた機体。大きな特徴はMAへの変形能力で他の4機のガンダムとはフレーム構造が根本的にことなっている。全高:18.86m。
[武装等]頭部75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」×2、60mm高エネルギービームライフル、ビームサーベル×4、対ビームシールド、腹部580mm複列位相エネルギー砲「スキュラ」、PS装甲
●ストライクガンダム:ラスティの愛機。本来は「ストライカーパックシステム」を採用し、スタンダードな中距離宇宙戦仕様、長距離砲を装備した砲撃戦仕様、実剣を装備した接近仕様の3タイプに兵器を換装できる白が基調のオールマイティな機体である。だが、現在はその性能を出し切れていない。全高:17.72m。
[武装等]頭部75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」×2、コンバットナイフ「アーマーシュナイダー」×2、57mm高エネルギービームライフル、対ビームシールド、バズーカ、PS装甲
◎ジン:ザフト軍の量産型モビルスーツ。様々な武器を装備できる汎用性の高い機体。全高:21.43m。強行偵察用、空戦用、寒冷地用、水中用、砂漠用など、様々なバリエーションがある。発展型にジンハイマニューバがある。ミゲル専用ジンはオレンジ色。
[標準武装]重突撃機銃、重斬刀、特火重粒子砲、無反動砲、短距離誘導弾発射筒×2、3連装短距離誘導弾発射筒×2
◎シグー:ザフト軍の指揮官用モビルスーツ。ラウ・ル・クルーゼが搭乗する。ジンに次ぐザフト軍戦闘用MS。主に指揮官用の機体であり、各スペックはジンを上回っている。左腕に装備された「M7070 28mmバルカンシステム内蔵防盾」は攻防一体を目的とした複合武装。ジンに変わる主力機として量産予定だったが、小型ビーム兵器を標準装備した連合軍のGAT-Xシリーズの登場によって、同じくビーム兵器を標準装備したZGMF-600ゲイツが配備された事により、結局少数生産に留まっている。全高:21.43m。
○アストレイ ブルーフレーム:アストレイはオーブ連合首長国の半公営企業である軍事企業モルゲンレーテ社が、大西洋連邦(以下:連邦)より提供されたMS開発技術を取り込んで完成させた機体である。「高い機動性により敵の攻撃を回避する」という防御コンセプトの元で開発された。全高:17.53m。
[武装等]75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」×2、ビームライフル、ビームサーベル×2、対ビームシールド、アサルトナイフ「アーマーシュナイダー」×2
○◎デュエルガンダム アサルトシュラウド:アサルトシュラウドは、デュエルに、ザフトが独自に追加した武装パーツ。バックパック及び脚部に追加された高出力スラスターによって機動力を強引に確保している。コンセプトは火器や推進器を内蔵した複合装甲によってMSの火力・機動力・防御力を一度に強化するというもの。
◎ジン・ウォーリア:ジンをカスタマイズしたモビルスーツではあるが、別機体と言えるほど外観や構造が変わっている。近接戦闘用に特化された機体であるため、かなり技量の高いパイロットでないと扱えない。アスカが操縦することにより、秘めたる力を示す。4つの目が特徴的な頭部は、補助光学カメラと電磁波センサーを各4つ備えている。
[標準武装]ポジトロンライフル、スマッシュホーク、短距離誘導弾発射筒×2、3連装短距離誘導弾発射筒×2
[近距離武装]プログナイフ、プログダガー、ソニックグレイブ、マゴロク・E・ソード、デュアルソー
[特殊武装]マステマ:長距離攻撃用N2迫撃弾×2、中距離攻撃用大型120ミリ機関砲、近距離攻撃用プログレッシブ・ソードの複合兵器。
◎フリーダムガンダム:ザフト軍が奪取したGATシリーズ(ガンダム)のデータを元に開発が始まったばかりの機体。動力は従来のバッテリー方式ではなく核エンジンである。「二ュートロンジャマ-キャンセラー」を持つことで、無限ともいえる電力供給はPS装甲をダウンさせることは無い。背中にビーム砲、腰にレールガンと大口径兵器を二門ずつ装備し、無敵ともいえる強さを持つ。
◎ジャスティスガンダム:フリーダムとは兄弟機にあたる。フリーダムと同様にニュートロンジャマーキャンセラーを装備し、落ちることのないPS装甲、ハリネズミのごとく火器を武装した最強のMS。
◎ヴェサリウス:ガンダム強奪のためにザフト軍が使用した、ナスカ級高速戦闘艦。全長:約255m。MS搭載数は最大6機
◎ガモフ:ローラシア級MS搭載戦闘艦。ガンダム強奪作戦に参加後、数機のガンダムを搭載する。全長:約170m。MS搭載数は最大6機。
◇アークエンジェル・クサナギのメカ
●デュエルダガー:デュエルの量産機で薄いグレーに青が基調の汎用性の高いオーソドックスな機体。アークエンジェルでは、主にシンジが搭乗する。
[武装]頭部対空自動バルカン砲塔システム×2、ビームライフル、ビームサーベル×2、シールド
●バスターダガー:バスターの量産機で白地に緑が基調の機体。当初、105ダガーに砲撃用ストライカーパックを装備する予定だったが、性能強化のため、機体ごと新設計となった。アークエンジェルでは、主にレイが搭乗する。全高:17.81m。
[武装]3連装ミサイルポッド×2、ガンランチャー、収束火線ライフル 、ビームサーベル×2
●105ダガー:正式名称は「ダガー」。ストライクの量産型で白地に薄い青が基調の機体。ストライクと同じ[ストライカーパックシステム]を採用している。耐ビーム用のラミネート装甲を採用。アークエンジェルでは、主にキラ・ヤマトが搭乗する。全高:18.00m。
[武装]頭部対空自動バルカン砲塔×2、ビームライフル×1、ビームサーベル×2、対人機関砲×2、シールド
○M1アストレイ:モルゲンレーテ社で作られたオーブ軍の次期主力MSで、白地にオレンジが基調の機体。バックパックに改良を加え、大気圏の飛行用に巨大ローター「シュライク」を装備することが可能。クサナギに搭載される。
[武装]ビームライフル、対空自動バルカン砲塔システム×2、ビームサーベル×2、シールド
○アストレイ レッドフレーム:アストレイは、オーブ連合首長国の半公営企業である軍事企業モルゲンレーテ社が、大西洋連邦(以下:連邦)より提供されたMS開発技術を取り込んで完成させた機体である。「高い機動性により敵の攻撃を回避する」という防御コンセプトの元で開発された。全高:17.53m。
[武装等]75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」×2、ビームライフル、ビームサーベル×2、対ビームシールド、アサルトナイフ「アーマーシュナイダー」×2
●ムウ専用MAメビウス<ゼロ>:ムウの愛機。有線式ガンバレルを装備しているが、それを使えるのはムウただ一人である。
●MAメビウス:連合軍の主力モビルアーマー。様々な武器を装備する事で戦局に対応する。
●ミストラル:連合軍の戦闘ポッド。非常に汎用性に優れ、様々なタイプが存在する。
●アークエンジェル:キラたちが搭乗する地球連合軍の強襲機動特装艦。ガンダム運用のためにヘリオポリスを訪れていた。 全長:約350m。MS搭載数は最大6機?。
○クサナギ:オーブの戦艦。モルゲンレーテ社製だけあって、その設計コンセプトはアークエンジェルと酷似している。船体は3つに分離することができ、中心部分のみ輸送艦として使用可能で大気圏突入能力を持つ。全長:約290m。MS搭載数は最大30機。
(注3)モビルアーマー(MA):戦闘機の発展型のようなもの。戦車、戦艦並みの火力と装甲、戦闘機並みの機動性と空戦能力、至近距離での戦闘能力を目指した兵器もあり、多種多様なものがある。
◇その他のメカ
□?:神出鬼没の青い機体。その正体は不明。
□?:神出鬼没の紫の機体。その正体は不明。
□?:神出鬼没の紅い機体。その正体は不明。
Red Warrior Phase6 [Red Warrior]
Red Warrior in the Seed World
PHASE6 追撃
「ふうっ、驚いたよ。まさか、連合のモビルスーツがこれほどのものとはな。アスカ、本当にご苦労だった。君のもたらした情報は、大変貴重なものだ。そうだな、これは間違いなくネビュラ勲章ものだろうよ。」
「はっ、ありがとうございます。」
クルーゼ隊長の命令を待たずして出撃したアスカは、懲罰を受けるのかもしれないと内心びくびくしていたのだが、クルーゼは叱るどころかアスカを褒め称えた。驚いたアスカは、思わず敬礼してしまった。
「では、諸君。アスカが命がけで手に入れた情報を見てもらおう。」
次にクルーゼは、既に招集していたパイロット達に、スクリーンを見るように促した。そこにはアークエンジェルは映っていなかったが、白地に緑が基調の機体のモビルスーツ-バスターダガー-と白地にオレンジが基調のモビルスーツ-M1アストレイ-4機が映っていた。
「緑の機体は、おそらく我々が奪ったデュエルの量産機だろう。オレンジの機体は、我々が奪った機体とはおそらく別系統のものだろう。オレンジの連携の取れた素早い動き、それに、緑の正確な射撃。ジンでは敵わない訳だ。よくもまあこんな奴らから逃げて来られたものだ。私でも、こいつらから逃げるのは困難だったろう。」
クルーゼに褒められて、アスカは恥ずかしくて真っ赤になってしまう。普段のアスカならば、『アンタ、バカァ!アタシなら、こんなのお茶の子サイサイよっ!』と言いながら背中を叩いてしまうところだが、相手が隊長でありザフトの英雄でもあるクルーゼなので、そうもいかないようだ。
「それで、ミゲル達の容態はどうなのですか。」
アスランが心配そうに聞いたが、クルーゼは打撲程度だから心配するほどのことは無いと答えたので、アスランはほっとしたようだった。
「しかし、隊長。我々の奪ったガンダムは、こんな動きは出来ません。我々が奪った方が量産機なのではないでしょうか。」
ニコルの質問に、クルーゼは頷いた。
「確かに、その可能性も無い訳ではない。だがな、私の勘はあちらの方が量産機だと言っている。では、動きが全然違うのは何故か。それはおそらく、OSの違いだろう。我々が奪った機体には、万一のことを考えて、最低限の動きしか出来ないようなOSがインストールされていたのだよ。だがあの機体は、戦闘用の完成版OSがインストールされているのだろう。ならば、我々はこれから何をなすべきと思うかね。」
クルーゼは、そう言って隊員達を見回した。もちろん、クルーゼの言わんとすることが分からないという顔をしている者はいなかった。クルーゼ隊には、そんなことも分からないような愚か者はいないのだ。そう、戦って相手の機体を鹵獲して、データを手に入れればいいのだ。
アークエンジェルでは、既にパイロットの選考は終わっていた。最終的にパイロットを決定したのはレイだった。レイによると、パイロットの適性があり、かつ何とか死なずに戦えそうなのは、キラとシンジの2人だけだということだった。そこで最初に、ムウがパイロットになるようにと二人に頼んでみた。
これに対して、キラもシンジも激しく反対した。キラは、戦争が嫌で中立国であるオーブに逃げて来たのに、戦うなんて絶対に嫌だと言った。シンジも、自分は人を傷つけるのは嫌だし、ましてやモビルスーツに乗るなんて、死んでも嫌だと拒絶した。すると、レイは艦長に説得してもらうと言って、最初にシンジを艦橋の艦長席に連れて行った。そして、マリューにシンジを説得するように頼んだのである。すると、マリューは突然シンジに頭を下げた。
「ねえ、シンジ君。戦いに巻き込んでしまったうえに、こんなことをお願いして悪いとは思っているわ。でもね、私はシンジ君に縋るしかないの。こんな言い方をするなんて、大人として最低だってことは分かっているわ。でもね、今はなりふり構っていられる状況じゃ無いのよ。だから、お願い。私達のために、いや、私のために戦ってちょうだい。」
そう言ってマリューが頭を上げると、シンジが大粒の涙を流していた。
「どうしたの、シンジ君……。」
驚くマリューに、シンジはマリューの声が、懐かしい誰かに似ているのだと言った。
「僕、たまに夢を見るんです。僕が人を傷つけるのを嫌がったから、戦いから逃げたから、僕の大切な人が死んでしまうんです。その人は、僕にキスをして、『大人のキスよ。……帰って来たら続きをしましょう。』って言って、僕を戦場に送り出したんです。でも、別れた後、僕の服に血がべっとりと着いていて……。僕は、二度とその人に会えませんでした。あなたの声は、その人に良く似ている。だから……。」
涙の止まらないシンジにマリューが声をかけようとすると、レイがゆっくりと口を開いた。
「私達も、そうなるわ……。」
その瞬間、シンジの身体がビクリと震えた。だが、構わずレイは続ける。
「あなたが戦わないと、多分私は死ぬ。艦長も死ぬ。
あなたが戦うと、敵が死ぬ。大勢死ぬかもしれない。
あなたは、どちらを選ぶの?
他人の命を奪うのは、とても嫌なこと。それは、私も同じだから分かる。
けれど、戦わないと、守れないものがあるのも事実。
他人の命を守るのか、自分の信念を貫くのか。
選ぶのはあなただから、良く考えて。
私はあなたが戦わなくても、仕方ないと思う。
でも、分かって欲しい。戦って人を殺せなんて、言う方も辛い。
それだけは、分かって欲しいの。」
それだけ一気に言うと、レイは口を閉じた。シンジは、そんなレイをじっと見つめる。
「要は、美人にキスしてもらうと戦ってくれるっていうことかな。」
だがその時、シリアスな雰囲気を一瞬にしてムウがぶち壊した。すると、マナが勢い良く手を上げた。
「シ、シンジ君。私がキ、キスするから、何度でもするから、お願いだから戦ってよ。ねっ、お願い。」
そして、口を尖らしながらシンジに向かっていく。
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよね、マナったら。」
フレイが慌ててシンジに突進していくマナを押し止める。そして、二人でぎゃあぎゃあ言って騒ぎだした。そんな様子を見ているうちに、シンジの涙はいつの間にか止まっていた。
「……分かりました。僕、マリューさんのために戦います。マリューさんの声が、僕の大切かもしれない人に似ているから。」
シンジが、先程の様子からは考えられないほど力強く言うと、レイはシンジに近付いた。
「シンジ君、ありがとう……。」
そう言いながら、レイはシンジにどんどんと近付いていく。
「むっ、レイも。一体何する気なの?」
危険を感じたのか、慌ててフレイがレイの腕を掴んで邪魔をする。
「嬉しいわ。ありがとう、シンジ君。」
しかしその時、フレイ達の争いの間隙を衝いて、マリューがシンジを抱きしめた。そして、おでこにちゅっとキスをした。
「「あーっ!」」
フレイとマナは、マリューを睨みつける。レイとムウは僅かに目を吊り上げ、他の皆は驚きのあまり声も出ない……訳がなく大声で騒ぎだした。
その後、キラもマリューにおでこにキスされて、その上マナの策略でアサギ達3人にも頬にキスされてしまったためか、渋々パイロットになることを承諾した。
アークエンジェルを追って数時間後、クルーゼ隊はなんとか追いつくことができた。そして、攻撃準備をしたところで、クサナギからの通信が入った。そのため、通信士は慌ててクルーゼを呼び出した。
「隊長、通信が入っています。オーブの軍艦「クサナギ」を名乗る艦からです。」
「何だと?分かった。私が出る。」
クルーゼが通信に出ると、オーブ軍少尉を名乗るマナから、いきなり攻撃してきてヘリオポリスを崩壊させたことについて、激しく抗議された。マナの話によると、クサナギはヘリオポリスの避難民を多数抱えており、乗り切れない避難民は連合の戦艦に乗っているという。だから、さっさと立ち去るようにと要求してきた。
クルーゼは、連合の新造戦艦をヘリオポリスで建造するなど、連合に与する証だ、中立国であるというのは偽装に違いないと反論した。だがマナは、連合の戦艦はたまたま補給のために立ち寄ったに過ぎない、人道的な理由から水や食料のみを補給したと主張し、反論材料の無いクルーゼは返す言葉が無かった。
次にクルーゼは、モビルスーツの製造意図を尋ねたが、マナは軍事機密だと突っぱねた。だがクルーゼは、モビルスーツの存在はザフトにとって大いなる脅威となるので、即刻引き渡さなければ攻撃すると伝えたところ、マナは軍事機密を盾にまたもや突っぱねた。
他にも色々言ってみたが、クルーゼは全てマナに言い負かされるかはぐらかされるかしてしまった。しかし、例え言い負けたとしても、後で卑怯者だと罵られようとも、ここで連合のモビルスーツを見逃す訳にはいかなかった。
「では、話は決裂だ。やむを得ないが攻撃させてもらう。」
最後にそう言って、クルーゼは通信を切った。そして、直ぐにアスラン達を呼び寄せた。
「どうだ、OSの切り替えは上手くいっているかね。」
クルーゼの問いに、アスラン達は頷いた。
「では、これから直ちに攻撃に移る。但し、攻撃対象は足付きに絞る。どうやら、もう一隻は本当にオーブ軍の戦艦らしい。だから、とりあえずはオーブ艦への直接攻撃は出来るだけ避ける。だが、モビルスーツは別だ。例えオーブ艦から発進したモビルスーツであろうとも、鹵獲出来ればそれにこしたことはない。だが、最初は相手の戦力を計ることを優先する。だから絶対に無理はするなよ。いいなっ。」
「「「「「はいっ!」」」」」
アスラン達は、元気良く返事をすると、モビルスーツへと向かった。
「ムウさん、ごめんなさい。」
発進前の慌ただしい時間であったが、レイは急にムウの前に現れて頭を下げた。
「おいおい、一体どうしたんだよ。」
ムウが笑って答えると、レイは頬から涙を流した。
「敵が攻めて来たのは、私のせい。私がムウさんに言われた通りにしていれば……。」
そう言って、レイはさらに涙を流す。
「なんだ、敵を取り逃がしたことか。気にするなよ。君は、良くやったよ。」
ムウの慰めに、レイは首を横に振った。
「違います。私がためらったから、敵に逃げられたんです。」
そう、アスカを狙ったビーム砲が外れたのは、レイが故意に狙いを甘くしたからだった。レイは、ムウに言われた通り、紅いジンを生かして帰さないようにマナ達に頼んだ。だが、肝心のレイは、敵とはいえ攻撃して来ない者を、どうしても撃つことが出来なかったのだ。
レイは、普段はあまり感情を表に出さないため、周りからは冷たい人間だと思われがちではあるが、実際はそうではない。人一倍優しい性格であるため、本来ならば戦いには向かないのだ。それなのに何故戦っているかと言うと、素性の知れない自分を拾って養女にまでしてくれた養父の恩に報いるため。そして、ザフトの攻撃で死んでいった友人やその親しい人達のため、心を鬼にして戦っているのだ。
だが、レイはどうしても非情になりきれなかった。その結果、自分達のモビルスーツの存在を知ってしまった敵を逃がしてしまった。そのため、敵は自分達の重要性に気付き、執拗に追いかけて来るようになった。自分のミスで仲間を危険に晒してしまって、レイは心底悔やんだ。そして、心を大きく乱してしまった。だから、シンジに対しても、あんなシンジを苦しめるような言い方をしてしまったのだ。それがレイの心を更に苦しめたのだ。
なおも泣き続けるレイに、ムウは頭を抱えそうになった。だが、あまり良い言葉は浮かばなかった。
「レイちゃん。過ぎたことを後悔しても始まらないよ。だから、今自分に出来る精一杯のことをするんだ。ここで泣いていたら、また失敗の繰り返しだぞ。なっ、そうだろ。」
「そうですね。ごめんなさい……。」
「君には、守りたい人がいるかな。もしいるなら、その人を守ることだけを考えて戦えよ。まっ、月並みな言葉だけどな。」
その時、急にレイの脳裏に、はにかみながら笑う少年の顔が浮かんだ。そして、レイは何かを思い出した。そうだ、私はこの命に代えても彼を守らなければならないのだ。彼を守らなければ、人類の存亡に係わる危機を乗り越えられない、そんなおぼろげな記憶がある。何でこんな重要なことを忘れていたのだろう。この命に代えても、彼をあらゆる敵から守り通さなければならないのだ。特に、彼を執拗に狙う、あの赤毛の悪魔からは絶対に。あの死に損ないは、きっとまだ彼を狙っているに違いない。何度も仕留め損なったあの強敵を倒さねば、人類の歴史は終わりを告げてしまうのだ。
「ワタシハ、タタカウ。アカゲノアクマカラ、スベテノテキカラ、イカリクンヲマモルタメニ……。」
レイは、ムウに聞こえないほど小さな声で呟いた。レイは、僅かではあったが、今まで失っていた記憶の一部を取り戻したようだった。そして、その瞳には、今までにない強い意思の光がみなぎった。
「はい、わかりました。私は戦います。」
レイは、涙をぬぐった。
「今の私には、それしかないから。」
レイはそう言うと、ムウに背を向けて走り去った。ムウは、そんなレイを暖かい目で見送った。
「キラ・ヤマト、105ダガー、行きますっ!」
「シンジ・アルスター、デュエル、い、行きますねっ!」
「レイ・ハルバートン、バスター、出ますっ!」
アークエンジェルからは、次々とモビルスーツが出撃して行った。クサナギからも、マナちゃんズが出撃して行く。メビウスはムウのみ非常時に出撃することになり、後は待機することになった。ムウ以外のメビウスが出ても、足手まといにしかならないからだ。
「シンジ君もキラ君も、私達からあまり離れないようにして。後は、さっき打ち合わせた通りにして。」
「「はいっ!」」
シンジとキラは、元気良く返事をした。デュエルダガーに乗るシンジは、先頭に立って相手にビームライフルを撃つ役目だ。ランチャー装備を付けた105ダガーに乗るキラと、元々遠距離の重砲撃戦用の機体であるバスターダガーに乗るレイは、シンジの後ろから援護射撃をする役だ。
「来たわよ、落ち着いて。」
レイが言うのとほぼ同時に、シンジのデュエルの脇をビームが通過した。そして、G兵器5機が襲いかかってきた。
「うわあっ!」
驚いたシンジは、錯乱してビームライフルを撃ちまくる。
「イ……、いけないわ。シンジ君、落ち着いて。」
レイの言葉に、シンジははっと我に返った。無駄にビームを撃つと、その分攻撃が早く終わる。攻撃できなくなると、自分はただの的と化してしまうのだ。さきほどレイに言われたそのことを、今になって思い出したのだ。
「あ、ありがとう。レイさん。」
シンジは深呼吸すると、今度は落ち着いて敵を狙って撃つようになった。
そんなシンジ達を横目に、マナ達も5機のモビルスーツと戦っていた。クルーゼのシグーと4機のジン相手にである。
「行くよおっ!マナちゃんズの底力、見せてやろうねっ!」
「「「おーっ!」」」
マナ達は、上手く連携しながら戦い、クルーゼ達を寄せつけない。一方、クルーゼが無理をしないようにと釘を刺していたこともあり、ザフトは探る程度に離れて攻撃するだけだった。そのため、どちらも相手に決定的なダメージを与えることが出来なかった。そうして、しばらく戦った後、ザフトのモビルスーツは退却して行った。
「生きてた……。」
「助かった……。」
シンジとキラは、戦闘が終わるとどっと疲れたと同時にほっとした。
「キラ君、お互い良く無事だったね。」
「うん、そうだね。もう、駄目かと思ったよ。」
「「生きてて良かったね。」」
そうして、お互いに大声で笑い合った。この時から、シンジとキラは何かと一緒につるむようになり、急速に仲良くなっていくのであった。
「ねえ、アスラン。話があるんだけど。」
アスカは、戻って来るなりアスランを呼び止めた。そして、人気の無い所へと連れて行く。
「おい、どうしたんだよ。俺に何の用だ。」
そこで、アスカは急に不機嫌な顔になって聞いた。
「アスラン、今の戦いで手加減してたでしょ。」
「おいおい、何を言うんだよ。変なことを言うなよな。」
アスランは、いきなり訳の分からないことを言うなと困惑した。だが、アスカはなおも問い詰める。
「ガンダムを奪取した時、アスランの名前を呼んだ少年がいたそうね。ラスティから聞いたわよ。アンタ、その少年が足付きに乗っているかもしれないって、そう思っているんでしょ。だから、全力で戦うことが出来なかった、そうでしょ。」
「うっ、それは……。」
ラスティのおしゃべり野郎め。アスランは、内心ラスティを毒づいた。何か言い訳をしようと思ったが、睨むような目つきのアスカに、言葉が詰まってしまう。
「いいから、正直に言いなさい。洗いざらいね。」
なおも詰め寄るアスカに、アスランは両手を上げた。
「分かった、分かった。全部話すから。全く、アスカには敵わないよ。」
そうして、アスランは親友キラ・ヤマトのことを話し始めた。
キラとは、10年前に月の幼年学校で出会ったこと。
それから、2年ちょっと前に別れるまでの間、ずっと仲良しで親友だったこと。
キラがコーディネーターだと分かり、プラントに来るよう誘ったこと。
詳しい事情は分からないが、結局キラはプラントに来なかったこと。
キラは、戦争をとても嫌がっていたこと。
それら、キラに関することを全て話した。話が終わると、アスカはふうっとため息をついた。
「ふうん、そういう訳があったのね。それじゃあ、しょうがないわねえ。」
「ああ、黙っていてごめん。でも、キラがクサナギや足付きに乗っている可能性は低いんだ。だから、言えなかった。」
アスランは、そう言って黙って頭を下げた。
「ううん、いいわよ。アタシだって、立場が同じだったら同じようなことをしたかもしれないし。でもね、もしもキラっていう子がクサナギか足付きに乗っていたとして、アンタは容赦なく沈めることが出来るのかしらね。」
「出来る……。いや、そうしなくちゃいけないんだ。」
アスランは、そう言って俯く。アスカは、そんなアスランの頬を優しく撫でた。
「アスラン、無理するのは止めなさいよ。何か良い方法が無いか、考えてみるから。」
「ああ、ありがとう。頼むよ。情けないけど、俺はどうして良いのか分からないんだ。」
「ええ、アタシに任せなさいって。」
アスカは、そう言って胸を叩いて…………ケホケホとむせてしまった。そのためアスランは、顔を引きつらせるのだった。
Red Warrior Phase5 [Red Warrior]
Red Warrior in the Seed World
PHASE5 ANGELS & GODDESS
「アスカ・アマルフィ、行きますっ!」
ミゲル達のジン部隊全滅の報を聞き、お気に入りの紅いヘッドセットを身につけて、アスカは速攻で出撃した。愛用の紅いジンには、念のためにレスキュー装備を付けていたため、直ぐに出撃が可能だったのだ。
「ミゲル、それにみんな……。お願いだから生きていて……。」
アスカは、祈る様に呟いた。念のため、今回出撃したパイロット全員にお守りを渡してはいるが、それでもアスカは不安だった。だが、そもそも何で楽勝のはずの作戦が失敗したのか。それは、約40分ほど前に遡る。
「バリアント、撃てえっ!」
ミゲル達のジンに急襲されたアークエンジェルでは、ナタルが声を張り上げて反撃の指示を下していた。艦長とはいえ、技術士官のマリューでは、的確な指示が下せないからだ。もちろん、マリューも同意のうえだ。
「駄目です!相手の動きが早すぎます!」
アークエンジェルの攻撃が次々と外れていくのを目の当たりにして、操舵士のアーノルドは悲鳴をあげるように叫んだ。アークエンジェルの攻撃は、敵のジンにはかすりもしない。単にヘリオポリスを破壊するのみであった。
「モビルアーマーの出撃はまだかっ!」
「駄目ですっ!今出たら、直ぐに墜とされますっ!」
ナタルの問いに、絶望的な返事が返ってきた。敵の襲撃がいくら早かったとはいえ、モビルアーマーの1機も出していれば、状況は一変していたはずなのだ。少なくとも、奇襲は受けなかったはずだった。ナタルは唇を噛み、自分の迂闊さを呪った。
「敵のジン、直上から来ます!」
「何っ!」
ナタルが気付いた時には、目の前に重突撃銃-モビルスーツサイズの巨大な機関銃-を構えたジンが浮かんでいた。その銃口は、艦橋の目と鼻の先にあった。
「ひいっ!」
「きゃあっ!」
マリューとミリアリアが悲鳴をあげる。皆が震えおののく中、ナタルだけはジンをしっかりと睨み付ける。そして、誰もが死を覚悟したその時、一条の光線がジンの右腕を貫いた。直後、ジンの右腕が吹き飛び、ジンは後退していく。
「なっ、今のはなんだっ!」
ナタルが叫ぶと、数瞬の後、弾んだ声が返ってきた。
「モ、モビルスーツが4機現れました!識別信号は、オ、オーブのものです!」
突如現れた白地にオレンジが基調のそのモビルスーツ達-M1アストレイ-は、ジンに向かって激しいビーム攻撃を加えていく。更に1機のジンが攻撃を受けて爆発し、残るジンは一旦後退する。ほっとみんなが一息つくと、ダリダが声をあげた。
「艦長!通信が入りました!」
声と同時に、正面スクリーンに、茶髪で少し垂れ目の可愛い女の子が映った。
「私は、オーブ軍少尉、マナ・キサカです。これから、侵入者の掃討を開始します。出来れば、ご協力をお願いしたいのですが。」
「ええ、もちろんよ。」
後の話では、マリューはこの時、マナが本当の天使に見えたという。そして、マリューが言葉を続けようとしたその時、すっとんきょうな声が響いた。
「ええっ、マナですって!」
ミリアリアは、思わず立ち上がってしまう。その声を聞いて、マナも反応した。
「ええっ、ミリアリアなの?どうしてそんなとこにいるのよ?」
どうやら、二人は知り合いらしかった。
「だって、シェルターに入れなくて。仕方なくこの艦に乗せてもらったのよ。」
「そっかあ。それじゃあ、頑張らないとね。マナちゃんズ、行くよおっ!」
「「「おーっ!」」」
マナの声に、黄色い声が反応した。こうして、マナ達4機のモビルスーツが加勢したため、一気に戦況は混沌としていった。
「畜生っ!なんなんだよ、あいつらはっ!」
ミゲルは、歯ぎしりした。大きな的を撃ち落とすだけの楽勝の任務のはずだったはずなのに、いきなり厳しい状況になってしまった。現在、味方は残り5機。しかも、1機は右腕を中破している。だが、プラントの未来のためにここで退く訳にはいかなかった。ミゲルは、ありったけの負けん気をかき集めて僚機に命令した。
「ふん、あんな奴らごときに遅れを取るものかっ!おい、トロール。俺と来い!他の奴らは、足付きを墜とせ!」
ミゲルは少し観察した後、マナ達のことを恐るるに足らずと判断した。ビームライフルの攻撃力は恐ろしいものがあるが、良く見ると動きはそれほど良くない。自分とトロールならば、2対4でも十分対応可能だと考えたのだ。自分達が敵モビルスーツを押さえ込んでいる間に、他のジンが足付き-アークエンジェル-を落とせばいいという判断だった。
ミゲルは、トロール機と共に新たな敵に突撃していく。だが、思った以上に敵の連携は良く、攻めあぐねてしまう。他の僚機はというと、アークエンジェルにミサイルの集中砲火を浴びせるところだった。正面から2機が攻撃して敵の注意を引きつけ、後ろ斜め下から大型ミサイルを撃ち込んだ。合計4発の大型ミサイルは、アークエンジェルの艦底へと吸い込まれていく。
「よし、やったぞ!」
ミゲルが叫んだ瞬間、信じられない光景が目に浮かんだ。何も無い空間がいきなり裂け、そこから巨大な青い手が2本生えてきて、その手からオレンジ色のシールドが発生したのだ。ミサイルは、そのシールドに阻まれて爆発し、爆煙の後からは無傷のアークエンジェルが現れた。
「ば、馬鹿な。俺は夢でも見ているのか。」
一瞬、ミゲルは混乱したが、ニコルから聞いた話を思い出して我に返った。自分達が奪ったモビルスーツの中には、姿を隠す特殊装備を持つものがあるという。あれもその類のものに違いない。そうなると、敵は4機とは限らない。下手をすると、自分達よりも数が多いかもしれないのだ。
「ちいっ!おい、お前ら!一旦引けっ!戦力を分散するのは危険だっ!」
ミゲルは、アークエンジェル付近に敵モビルスーツが潜んでいると警戒し、ジンをアークエンジェルから少し離れた場所に集結させた。だが、これは大失敗だった。後方から、6発のミサイルが襲って来たのだ。
「うわあっ!」
ミゲルのジンは、ミサイルを右脚に被弾して弾き飛ばされた。他のジンも、ミサイルを次々と被弾していく。
「なっ、今度は何だっ!」
ミゲルがを目を凝らすと、白地に緑が基調の機体のモビルスーツ-バスターダガー-が大きな銃を構えていた。そして、次々に砲撃を加えて来る。その攻撃は正確無比であり、ジンはたちまち被弾していく。
「ちっ!退却だ!」
ミゲルが撤退を判断した時は、既に遅かった。ムウのメビウスが、マナちゃんズが襲いかかってきたからだ。
「アスカ、お前のキスは絶望的だな。」
ミゲルが呟いたその時、ミゲルのジンは爆散した。他のジンも同じ運命をたどり、こうしてジン部隊は5人の美少女パイロットの手によって壊滅したのであった。
戦闘終了後、アークエンジェルに新たなモビルスーツから通信が入った。
「私は、地球連合軍第八艦隊特務隊所属、レイ・ハルバートン大尉です。艦長にお話がしたいのですが。」
声と同時に、スクリーンには蒼髪で紅い瞳をした、月の女神のような雰囲気を持つスーパー美少女が映っていた。
「レイ!レイなの?」
レイの姿を見て、マリュー艦長が立ち上がった。レイは、マリューの上司であり心の師であるデュエイン・ハルバートン准将の、養女だった。それ故、二人は知り合いであり、そればかりか歳の離れた姉妹のように仲良くしていたのだ。
「あっ、マリューさん。お久し振りです。あの、艦長はどちらでしょうか。お話がしたいのですが。」
「それがね、今は私が艦長なの。上官は、皆戦死しちゃってね。」
マリューは、ぺろりと舌を出した。それで全てを理解したレイは、マリューに急いで逃げるように言った。レイ曰く、
今の戦闘、特にザフトのミサイルなどによって、ヘリオポリスに大きな被害が出ていること。
ヘリオポリスを支えるシャフトが既に壊れており、もうすぐヘリオポリスの崩壊が始まること。
既に、無数のシェルターが救命ボートと化して、ヘリオポリスから離脱を始めていること。
崩壊する前に脱出しないと、アークエンジェルに大きな被害が出る可能性が高いこと。
自分達は、別途クサナギというオーブの軍艦で脱出するので、心配しないで良いこと。
脱出したら、当分の間クサナギと行動を共にしてほしいこと。
とのことだった。
「ええ、分かったわ。メビウスの収容急いで。それが済んだら、急いでこの場を脱出するわよ。」
そこに、またミリアリアが声をあげた。
「レイ、あなたまで……。一体、どうして……。」
どうやら、ミリアリアはレイとも知り合いのようだった。驚くミリアリアに、レイは困惑した表情になった。
「ミリアリア、黙っていてごめんなさい。でも、話は後よ。私も、できる限り早いうちにそちらに合流するわ。」
「ええ、分かったわ。じゃあ、後でね。」
「ええ、後で。」
レイは、アークエンジェルとの通信を打ち切ると、今度はマナに通信を繋いだ。それと同時に、マナの元気な声が響いてきた。
「やっほーっ!レイのおかげで助かっちゃたわ。マナちゃん、感謝感激雨あられよ。」
だが、ハイテンションのマナとは対照的に、レイは落ち着いていた。
「いえ、大したことではないわ。それよりも、手伝って欲しいことがあるの。」
「ええ、任せておいて。で、何をすればいいの?」
「コンテナを3つほど、クサナギに積んで欲しいの。いいかしら。」
レイは、頼むと同時にコンテナの位置情報をマナに送った。
「ええ、いいわよ。アサギ、ジュリ、マユラ、ヨロシクね。」
「「「は~いっ!」」」
他の3人のパイロット達は、元気に返事をした。そして、直ぐに行動に取りかかる。
「で、私達はここで敵が来ないように見張っていればいいのかな。」
「ええ、そうよ。これで終わりとは思えないもの。」
そして、レイの予想通り、コンテナの積み込みが終わった頃、紅いジンが現れた。
「あのジンは、生きて返してはダメ。マナ、攻撃をお願い。」
レイは、珍しく思ったことをストレートに口に出した。
「よっしゃあっ!マナちゃんに任せなさいって。」
レイとマナは、紅いジンに対して激しいビームの雨をお見舞いした。少し遅れて、残る3機のモビルスーツも攻撃に加わった。
「こんちくしょうっ!」
ヘリオポリスに入るなり、激しいビーム攻撃を受けたアスカは毒づいた。まさか、見知らぬモビルスーツ5機から急襲されるとは、流石のアスカでさえも思いもよらなかったからだ。だが、希望はあった。ミゲル達の救難信号は、未だに途絶えていなかったのだ。
「よし、なんとしても助けてみせるっ!」
アスカはジンを自由自在に操り、パイロットに敵の攻撃が当たらない様に上手くかわしながら、一人一人着実にパイロットをレスキュー装備のネットに回収し、救出していった。アスカは反撃したかったが、やはり仲間の命の方が大事だからと、歯を食いしばって守りに専念した。だが、敵の攻撃の手は緩まない
「くっ。しつこいわね。」
アスカは、敵の執拗な攻撃に舌を巻いた。どうやら、敵は自分を無事に帰すつもりはなさそうだった。アスカは、反撃するかどうか一瞬迷った末に、断念した。
「ちっ。今に見てなさいよ。この恨みは、きっと次の機会に晴らしてやる。」
アスカは、パイロットが一人でも死んでいたら、アークエンジェルをバラバラにし、敵を皆殺しにするつもりだった。それを実行出来るだけの自信も実力もあった。だが、今は仲間の命が最優先。どんな怪我をしているか分からないし、酸素切れで死なせたりする訳にはいかない。それには、一刻も早くこの場を去るのが最上の手段だった。いいように攻撃されても反撃を我慢するなんて、今にも脳血管がブチ切れそうになるほど耐えがたいことではあるが、今は我慢の時と自分に言い聞かせた。
だが敵は、反撃しないアスカをいいことに、直接攻撃に出てきた。オーブ初の量産型モビルスーツであるM1アストレイが、4機一度に攻めてきたのだ。敵はビームサーベルを振り回し、連携しながらアスカを追い詰めていく。
「ちくしょうっ!卑怯者めっ!」
アスカは、味方パイロットを抱えているためにろくな反撃が出来ず、防戦一方であった。そんなアスカに、敵は交代でヒット・アンド・アウエイを繰り返す。普通のパイロットならばとっくのうちに倒されていただろうが、アスカは並のパイロットではなかった。アスカは、神業のような動きで、敵の巧みな連携攻撃をかわしていく。
「はっ!この殺気はっ!」
4機の機体が離れると同時に、何故か懐かしい雰囲気がする殺気を感じた。殺気を感じた瞬間、機体の位置をずらすと、次の瞬間、アスカのジンがいた場所を、アストレイのビームライフルの数倍の威力を持つビーム砲が通過した。アスカの背筋に、冷たいものが走った。
「よし、今よ!」
だが、ピンチの後にチャンス有り。アストレイがジンから離れた一瞬の隙を衝いて、アスカはジンを急加速する。そして最後の一人を無事回収すると、アスカはさっさとその場を逃げ去って行った。
戦闘終了から数時間後、アークエンジェルとクサナギは首尾よく合流した。レイが漂流していた救命ボートをアークエンジェルに持ち込もうとし、ナタルがそれに文句をつけるというトラブルはあったが、ボートの中に居た医者にマリューの手当てをしてもらうとレイが説明すると、流石のナタルも渋々引き下がった。
レイは艦橋に到着すると、挨拶もそこそこに、士官以上で早速簡単な作戦会議を始めることにした。そして、会議の前に、レイは簡単に事情を説明した。
G兵器の開発途上で、ナチュラルのパイロットには、G兵器の操縦が困難である可能性が発見されたこと。
そのため、レイが責任者となって、ナチュラル用にG兵器の量産機である「D兵器」の開発が進められたこと。
その際、オーブの開発する量産機-M1アストレイ-と協力して開発を進めたこと。
D兵器は、デュエル、バスター、ストライクの3機のG兵器の量産機であること。
それぞれ、デュエルダガー、バスターダガー、105ダガー(又は単に「ダガー」)という名称であること。
レイは、モビルスーツのテストパイロットでもあったこと。
オーブ軍のテストパイロットは4人いて、マナ、アサギ、ジュリ、マユラという女の子であること。
ナチュラルの乗るD兵器の戦力を1とすると、コーディネーターの乗るG兵器の戦力は2程度であること。
敵の手に渡ったG兵器には、未完成のOS(基本ソフト)がインストールされており、動きが鈍いこと。
そのため、現在のG兵器の戦力は、D兵器の戦力を1とすると、0.5~1程度であること。
とはいえ、そのうちに改良したソフトをインストールされて、動きが格段に良くなるであろうこと。
現時点では、パイロットは5人しかいないことから、パイロットの確保が最優先課題であること。
レイとマナは、カムフラージュのためにヘリオポリスのカレッジに通っていたこと。
ミリアリアとはそこで知り合い、結構気が合って仲が良かったこと。
そこまで一気に話すと、レイはパイロットの選考をしたいと主張した。また、みんなの命がかかっていることから、選り好みは出来ない、例え民間人でも本人の協力が得られればパイロットになってもらうと断言した。ナタルが何か文句を言いたげだったが、結局口には出さなかった。
「さて、最初は艦長からお願いしましょうか。」
レイがそう言うと、マリューは顔を引きつらせた。
レイ達が格納庫に行くと、既にマナ達がシミュレータの準備を終えていた。このシミュレータを使って、パイロットの適性を判断するつもりだったのだ。そこに、大きな声でレイ達を呼ぶ声があった。
「レイ!マナ!ミリアリア!みんな無事だったの?」
驚いて振り向くと、3人の共通の友人であるフレイ・アルスターがこちらに向かって来ていた。
「きゃあっ、良かった!マナちゃん、嬉しいなっと。」
フレイと一番の仲良しであったマナは、大喜びだった。そして、フレイに飛びつくようにして抱きついた。
「ねえ、ここってザフトの戦艦の中でしょ。だって、モビルスーツがあるんだもの。みんな、捕虜にでもなったの?」
首を傾げるフレイに、マナは苦笑した。
「あれはねえ、地球連合軍のモビルスーツなの。ちなみに、レイはテストパイロットなんだよ。」
「ええっ!」
フレイは、驚いて目をまんまるくしてレイを見る。
「でね、マナもモビルスーツのパイロットなの。へっへーん。やっとこさ、ナチュラルでも動かせるモビルスーツを造ったんだよ、凄いでしょ。」
マナは、鼻高々であった。最初は驚いていたフレイだったが、ようやくどういうことなのか気付いたようだった。
「う、うん。そうなんだ、凄いね。そしたらさあ、コ……ザフトの連中なんてみんなやっつけられるの?」
「まあ、直ぐには無理だよ。それにオーブだって、まだプラントとは戦争はしていないしね。」
マナの声のトーンが、次第に落ちていく。だが、急に声が大きくなった。
「そういやさあ、フレイのお兄さんは?あの、優しそうな感じのお兄さんはっ!」
「ええ、無事よ。私を心配して、駆けつけて来てくれたのよ。で、一緒のシェルターに逃げ込んだの。ねえ、兄さん。こっちに来てよ。友達を紹介するわ。」
フレイが手招きをすると、優柔不断で気が弱そうな少年がやって来た。そして、みんなの前でぺこりと頭を下げた。
「皆さん、初めまして。僕はフレイの兄の、シンジ・アルスターと言います。よろしくお願いします。」
この時、レイの唇が僅かに動いたが、それに気付いた者は誰もいなかった。もしも、読唇術に長けている者がいれば、レイがこう呟いたことが分かっただろう。『イカリクンハ、ワタシガマモル……。』と。
あとがき
◇おおまかな強さについて(捕捉)
愛機に乗った状態での強さで言うと、今は概ね次の通りです。
アスカ・レイ>アストレイ(inマナ達)>ジン(inアスラン達)>D兵器(inキラ)>ジン(inザフト一般兵)>D兵器(inシンジ)>G兵器(inアスラン達)
次話でOSが改良されると、次のようになります。
アスカ・レイ>アストレイ(inマナ達)・G兵器(inアスラン達)>ジン(inアスラン達)>D兵器(inキラ)>ジン(inザフト一般兵)>D兵器(inシンジ)
純粋なパイロットの技量は、概ね次の通り。アスカ・レイ>アスラン達>マナ達・ザフト一般兵>キラ>シンジ
Red Warrior Phase4 [Red Warrior]
Red Warrior in the Seed World
PHASE4 「足付き」奪取作戦
見事ストライクガンダムを奪取したラスティは、早々に機体を起動して工場から出た。そこでは、まだミゲル達が地球連合軍と戦っていた。
「アスラン!」
ストライクガンダムを見たミゲルは、アスランが作戦に成功したものと思い込み、疑いもせずに声をかけた。
「ああ、成功した。もうすぐ、アスランも来るだろうよ。」
ラスティは、少し不満気に返事をした。
「なんだ、ラスティだったのか。アスランを出し抜くとは、凄えな。」
事情を知らないミゲルは、ラスティが先に敵の新型起動兵器を奪取したものと早合点して驚いた。
「ま、まあな。」
アスランの獲物を横取りした格好のラスティは、ちょっとぎこちない返事をしたが、そこにアスランから通信が入った。
「ミゲル、作戦は成功した。全員無事だ。ラスティ、俺達は先に行くぞ。ミゲルは、俺達の援護を頼む。」
「おお、任せとけ。」
ミゲルが良く見ると、アスランの奪取した赤い機体には仲間が数人取りついていた。これでは、戦闘は出来ないだろう。良く見ると、ラスティの機体には誰も取りついていない。ミゲルは、アスランが遅れた真の理由を理解した。仲間想いのアスランらしい。ミゲルは苦笑した。
「ラスティ、お前が先に行け。無事に隊長の所に届けるんだぞ。」
「当然っしょ。」
ラスティは、陽気に返事をした。
ヘリオポリスの外では、ザフトのジンと地球連合軍のモビルアーマーのメビウスや戦闘ポッドのミストラルが激しい戦いを続けていた。数では圧倒的に勝る地球連合軍だったが、次々とジンに撃破されていく。
「やっぱり、ジン相手には厳しいか。」
モビルアーマーのパイロット、ムウ・ラ・フラガは悔しそうに呟いた。彼はモビルアーマーのエースパイロットであり、一度の会戦で最高5機のジンを葬ったことがあるのだが、ジン1機にてモビルアーマー(MA)37機、戦艦6隻を一度の会戦で撃沈したザフトの英雄クルーゼとは比べるべくもない。
それは、元々機体性能に大きな差があるからだ。地球連合軍では、当初モビルアーマーとモビルスーツの機体戦力比を2対3ないし1対2と見込んでいたのだが、現実の戦闘では概ね1対5であったのだ。20世紀末の戦闘機の空中戦では、旧式戦闘機2機で最新鋭機1機に勝てたという。それから考えると、モビルアーマーとモビルスーツの戦力差は想像を絶するものなのだろう。
それ故に、ザフトは圧倒的な戦力差にもかかわらず、地球連合軍と互角以上に戦ってきたのである。それをパイロットの技量でカバーするのには限界がある。しかも、ザフトはいくらコーディネーターで構成されているといはいえ、その殆どが戦闘の素人の集まりなのだ。
機体戦力比がこの状態で戦いが長引けば、いずれは地球連合軍は負けるに違いない。ザフトパイロットの熟練度は上がっていき、逆に地球連合軍パイロットの熟練パイロットは次々に戦死して熟練度は下がっていくからだ。それを防ぐためには、機体戦力比をせめて1対2以下にする必要がある。それにいち早く気付いたデュエイン・ハルバートンという軍高官が、「G兵器」の開発を推し進めたのだ。
ムウは、その「G兵器」-ガンダム-のパイロットの護衛のためにヘリオポリスにやって来たのだが、運悪くこのザフトの襲撃に居合わせてしまい、こうしてジンと戦っているのだ。だが、仲間は次々と撃墜されていき、残りは数少ない。
「こりゃあ、潮時かねえ。」
ムウは、付近の味方と連絡をとり、敵の追撃を逃れてヘリオポリス内に進入した。
「アークエンジェル、発進準備急げっ!」
新造戦艦アークエンジェル内では、地球連合軍のナタル・バジルール少尉が声を張り上げていた。敵の襲撃直後、艦長に命じられてモルゲンレーテ社の工場にいるはずのマリュー・ラミアス大尉の所へ向かおうとしていたのだが、その途中で大きな爆発に巻き込まれたのだ。ナタルが気付いてみたら、周りは死体だらけ。そこで、急ぎ生き残った者を数名探し集めて、アークエンジェルの艦橋に来たのだった。
艦橋に来たら、状況は掴めずに他の場所とは全く連絡がとれない。さりとてこのままここにいては、遠からずこの戦艦が敵の手に渡るのは必至である。敵の電波妨害は未だに続いていることから、敵の第一目標がモルゲンレーテ社の工場にある地球連合軍の「G兵器」と呼ばれる新型起動兵器である可能性が高い。もしかしたら、今も戦闘が続いている可能性がある。それならば、一刻も早くこの戦艦を向かわせて、味方の援護をするつもりだったのだ。
「特装砲を発射と同時に、最大船速!」
発進準備が整ったと報告を受けたナタルは、アークエンジェルの最強兵器を用いて隔壁を吹き飛ばし、発進させることに成功した。
「お帰りっ!ラスティ!アスラン!」
戦艦ヴェサリウスに無事に戻った二人に、アスカは飛びついて頬ずりした。
「おいおい、どうしたんだよ。」
アスランは、突然のことにびっくりするが、ラスティは無言である。余計なことを言えば、この至福の時間が早く終わると思ったからだ。
「いいなあっ。」
その光景を見たミゲルは、遠くから羨ましそうに呟く。そして、俺も無事に戻ったばかりなんだけどと呟くが、誰も聞いちゃいない。
「おかしいですね。」
一方、ニコルは何となく違和感を感じていた。アスカがこんな行動をしたこともそうだが、アスランよりもラスティの名前を先に呼んだからだった。
「なんだよ、俺達が失敗したとでも思ったか。」
外野の言葉とは関係なくアスランが苦笑するが、アスカは口を尖らして反論した。
「だってさ、随分遅かったじゃない。だから、心配しちゃったのよ。」
そんなやりとりを見て、ニコルは納得した。アスラン達が遅かったので、随分心配したのだろうと。そうして、違和感を振り払った。
「な、なんだとっ!「G」が全機奪われただとっ!」
ヘリオポリス内に入り、生き残った地球連合軍兵士から衝撃的な報告を受けたナタルは、みるみるうちに真っ青になった。敵はおそらく現在補給中であり、再び攻撃して来るのは間違いない。タイムリミットは、長くても数時間だろう。
「少尉、どうしましょうか。」
アーノルド・ノイマン曹長が尋ねると、ナタルは即座に命令した。
「アークエンジェルを地表に降ろせ。そして、1時間以内に積み込めるだけの物資を積み込むんだ。生き残った兵士も、可能な限り収容する。急げ、時間はそうないぞ。」
「はい、了解しましたっ!」
アーノルドは、直ぐに返事をした。だがその時、味方からの通信が入った。
「おい、お前達は地球連合軍か。着艦許可を願いたい。俺は、ムウ・ラ・フラガ大尉だ。」
「よろしい、着艦を許可する。」
ナタルは即座に答えた。それと同時にほっとした。これで、自分が艦長になる可能性がほぼ無くなったことに気付いたからだ。他の上官が全て死亡したとしても、自分よりも上官のムウが艦長の任に就くはずだからだ。
「はあっ、はあっ、はあっ……。」
モルゲンレーテ社の工場から逃げ出したキラは、背中に気絶した巨乳美女を乗せて歩いていた。先程まで走っていたため、それとも背中に何かが当たるためか、息が荒い。
「これからどこへ逃げようか。」
途方に暮れたキラだったが、そこに懐かしい声がした。
「おい、キラじゃないか!」
振り向くと、友人のサイ達が立っていた。トール、ミリアリア、カズイも一緒である。
「良かったあ。どうしたら良いのか分かんなくて。」
キラは、仲間達に会えてほっとした。だが、それも束の間だった。
「で、背中の女性は誰なの?どうしてオンブしてるの?」
ミリアリアに聞かれて、キラは何と言って良いのか分からなかった。それで、仕方なくこうなった経緯を話した。
「……それで、一応止血して、人工呼吸をしたんだけど目を覚まさなくて。」
それを聞いて、その場の皆が固まる。そして数秒経ってから、ミリアリアが目を吊り上げながら言った。
「キラ……。人工呼吸って、息が止まった時にするものなのよ。知らないの?」
「えっ、そうだったっけ。」
キラは、呆然とした。どうやら、慌てていて間違えてしまったようだ。実に、男にとって都合の良い勘違いではあるのだが。
「いいなあっ、そんな美人とキス出来るなんて。」
恋人トールの呟きに、ミリアリアはキッと睨む。途端にトールはペコペコと謝りだす。キラも真っ赤になってしまった。そんな時、巨乳美女から小さい音で何かが聞こえた。
「あれ、なんだろう。」
サイが調べると、巨乳美女のポケットに通信機らしきものが見え、そこから何かが聞こえているらしい。耳を澄まして聞くと、どうやらモルゲンレーテ社の工場近辺に生き残った地球連合軍兵士は集まれと言っているらしい。
「おい、あれ見ろよ。戦艦が飛んでいるぞ。」
カズイの指し示す方向を見ると、アークエンジェルが飛んでいた。そのアークエンジェルが地表に降り立とうとしているのを見て、キラ達はアークエンジェルの方向へと走って行った。
「大尉!マリュー・ラミアス大尉!」
アークエンジェルに着くなり、整備士らしき男が巨乳美女を見て叫んだ。
「この人、怪我をしてるんです。早く手当てをして下さい。」
キラが頼むが、男は首を振った。医者も看護士もいないので、ろくな手当てが出来ないのだと言う。シェルターが一杯でどこにも入れないので、何とかならないかと聞いたが、その男は分からないと言う。そして、男は誰かと連絡した後、マリューを艦橋まで連れて行くよう頼んだ。人手が足りないからだという。
キラは、頷いてマリューを背負いながらも艦橋へと連れて行った。すると、ナタルがキラにマリューを艦長席に座らせるように頼んできた。頷いて言う通りにした後、アーノルドが近付いて注射をしたら、少しうめいたあとでマリューが目を覚ました。
「良かった。」
思わずキラは言った後、その場から立ち去ろうとした。だがそこに、ムウが声をかけた。
「えっと、君の名前はなんて言うのかな。」
「キラ、キラ・ヤマトです。」
「キラ君、悪いけど俺達の手助けをしてくれないかなあ。」
「えっ。」
キラは、一瞬何を言われているのか分からなかった。だが、ムウは簡潔丁寧に説明した。
これからこの戦艦-アークエンジェル-で逃げること。
ザフトに追撃され、戦闘になる可能性が高いこと。
今は人員不足で、猫の手も借りたい状態であること。
生き残ったのは整備士が殆どで、他のクルーが全く足りないこと。
だから、どんなことでもいいから協力して欲しいこと。
無理強いはしないが、いつ戦いが始まるのか分からないこと。
そのため、戦闘に巻き込まれてキラ達が死ぬ可能性があること。
とはいえ、この戦艦に乗っていても撃沈されて死ぬ可能性が高いこと。
だから、友人達とよく話して相談して決めてほしいこと。
ムウの後ろから、ナタルが民間人を巻き込むのかと文句を言ったが、ムウはこの子達の命がかかっているから、この子達に選択させるのが筋だ、それに俺の方が上官だと言って黙らせた。
「そ、そんなあ。」
キラは、命がかかっていると言われて真っ青になったが、ムウに早く結論を出さないと出発すると言われて、慌てて飛び出して行った。そして、地表で待っていたサイ達に相談したところ、一か八かこの戦艦に乗ろうということになった。
サイ達は、ずっとシェルターを探していたのだが、結局全部満杯で入れなかったのだ。しかも、戦闘によって破壊されたシェルターもあると聞いたからだった。決定打はトールの一言だった。トールは、どうせ死ぬならミリアリアと一緒がいいと言って、ミリアリアの頬を涙で濡らしたのだ。
こうして、とにかく結論を出したキラ達は、艦橋へと全員で向かった。そこで、キラ達の経歴などを聞かれ、早速持ち場を割り当てられた。どうやらキラ達の経歴は、艦橋要員にうってつけだったらしい。結局サイ、ミリアリア、トール、キラ、カズイの5人共、艦橋で働くことになったのだ。
サイ、ミリアリア、キラの3人はCIC-Combat Information Centerの略で戦闘指揮所-という場所に交代で詰めることになった。そのため、ジャッキー伍長とロメロ伍長から何をするのかレクチャーを受けた。なお、CICの区画はマリューの座る艦長席の左下にある小部屋にあった。
トールはアーノルド曹長の横、艦長席の前方で副操縦士を担当する。カズイはダリダ伍長の後ろ、艦長席の後方でダリダと一緒に通信を担当することになった。
こうして、ムウの機転で艦橋の要員確保はなんとかなったが、これからどうしようかとマリュー、ムウ、ナタルの生き残った士官(少尉以上)3人で相談した。最初にムウの提案で、同じ大尉でもアークエンジェルのことを良く知っているマリューが適任と、マリューが艦長になることになった。
次にこれからどうしようという話しになったが、それはとにかく逃げることで3人の意見は一致した。アークエンジェルの戦力はメビウスが数機だけ。これではジン1機相手でも厳しいというのがムウの意見だったし、アークエンジェルを絶対に敵に渡してはならないというのがマリューの意見だった。特に、奪われた機体のストライクガンダムは、アークエンジェルが積んでいる支援装備があると攻撃力が一層増すからだった。
ナタルは、最初のうちは以前5機のジンを葬ったムウがいるので、何とか戦えるのではないか、「G兵器」を奪還出来ないかと主張したのだが、ムウは冗談じゃないと言った。多くの戦艦やモビルアーマーという仲間がいてこそ、ようやくジンを倒せたのだ。今この状況では、圧倒的に不利であると。それに、敵の保有しているジンは10機近いだろうし、先程の戦闘ではようやく1機のジンを中破させたにすぎないのだと。
しかも、ムウはもう一つの不安材料を口にした。ザフトは、奪取した「G兵器」を投入してくる可能性があるというのだ。ムウは、そうなったら万が一の勝ち目も無いという。
マリューは、OS(基本ソフト)などのソフトが未完成だから、それは絶対にあり得ないと主張した。だが、ムウは専門家のコーディネーターならば数時間でソフトの改良は可能かもしれないと言う。ジンのソフトを改良すれば、その時間はもっと短縮出来る可能性があるとも。
そうなると、PS装甲を装備しているために弾丸やミサイルなどの実体弾が効かない「G兵器」は、かなり厄介な相手になるという。正直言って、ビーム兵器を搭載していない味方のモビルアーマーでは、全然太刀打ちできないと言うのだ。
いくらアークエンジェルの武装が強固だとしても、補給無しではいつか弾切れとなって、最後は単なる大きな的になり、なぶり殺しになるだけである。下手をすると、艦橋をピンポイントで狙われて鹵獲されかねない。だから、何がどうあってもとにかく逃げるしかない、それがムウの主張だった。
そんな話を大声でするものだから、キラ達はとっても不安な気持ちになった。
「ええっ、また出撃ですか?」
クルーゼから、再度出撃を命令されたミゲルは驚いた。これで作戦は終了したと思っていたからである。
「ほう、不満かね。」
クルーゼの声色が少し変わったため、ミゲルは慌てて否定した。
「いえ、もう獲物は残っていないと思ったものですから。」
だが、クルーゼの話では、現在ヘリオポリス内に新造戦艦-コードネームは『足付き』-が停泊しているという。おそらく新型起動兵器の運用艦だろうから、奪取又は破壊せよというのがクルーゼの命令内容だった。出撃するのは、ミゲルを含めて6機のジンだった。それも、D型装備(拠点攻撃用重爆撃装備)なのだという。
「クルーゼ隊長。戦艦1隻に、少々大げさなのではないでしょうか。」
首を傾げるミゲルに、クルーゼは念には念を入れるのだと答えた。
「なに、少々嫌な予感がするのだよ。それに、敵には地球連合軍の英雄であるエンデュミオンの鷹、あのムウ・ラ・フラガがいるようなのだ。先程、トロールがやられたのだ。」
「トロールが?はい、分かりました。それならば、全力をもって仕留めます。」
ミゲルは、クルーゼに敬礼すると部屋を出た。
「ミ~ゲ~ル!頑張りなさいよ~っ!絶対に、生きて帰るのよ~っ!」
ミゲルが出撃準備をしていると、アスカの声が聞こえてきた。ミゲルも大声で返事をする。
「お~っ!任せておけ~っ!作戦に成功したら、キスしてくれよな~っ!」
「ほっぺならいいわよ~っ!」
アスカの返事を聞いて、パイロット連中は全員色めき立つ。
「ずるいぞ、ミゲル!」
「お、俺も~っ!」
「俺もお願い、アスカちゃ~ん!」
「はいはい、いいわよ。但し、みんなもほっぺよ。」
「「「「「お~っ!」」」」」
「ちぇっ。」
ミゲルを除くパイロットは、飛び上がらんばかりに喜んだ。これで勇気百倍である。そして、意気揚々と出撃して行った。
「まあ、いいか。これで、みんなが無事に帰って来れば。」
アスカは苦笑した。本当は、好きでも無い男にキスをするなど論外であるが、少しでもみんなが生きて帰って来る確率が上がるならば、頬にキスする位ならばいいだろうと思ったのだ。今のところ、アスカがキスをしても良いと思うような男はいない。ニコルやアスランはかなり好きだが、義弟と親友の婚約者でもあるし、男として好きなのかと言うと、そこまでの自信はないのだ。
だが、そんなアスカの想いをあざ笑うかのように、約1時間後に驚くべき連絡が入った。ジン部隊全滅の報であった。そして、ヘリオポリスの崩壊が始まったのである。
Red Warrior Phase3 [Red Warrior]
Red Warrior in the Seed World
PHASE3 ガンダム奪取作戦
クルーゼ隊に入ったアスカだったが、他の赤服メンバーが次々と実戦で成果をあげていくのに対して、目立った活躍の場は与えられなかった。アスカに与えられるのは、比較的安全で地道な偵察任務だけだったのだ。アスカは何度もクルーゼに直訴して実戦に出してもらおうかと思い詰めたが、結局断念することにした。地道に任務をこなすことが、結局は近道だと判断したためである。このため、クルーゼはアスカのことを簡単な任務を文句も言わずに黙々とこなす便利なパイロットと判断し、アスカの本心に気付くことはなかった。
戦局はというと、膠着状態が続いていたが、数で勝る地球連合軍が短期間で勝利するだろうという大方の見通しを覆し、あろうことか徐々にザフトの勢力圏が広がっていった。そして、ザフトは東アジア共和国のカオシュン(華南)宇宙港を攻撃し、1週間ほどでこれを陥落せしめたのである。
そして……。
C.E.(コズミック・イラ)71年1月25日
ニコルとアスランは、長椅子に並んで腰掛けていた。
「アスラン、もうすぐ出撃だね。」
「ああ、そうだな。今度もきっと、うまくいくさ。」
もうすぐ中立国の資源衛星ヘリオポリスに忍び込んで、地球連合軍の新型機動兵器を奪おうという作戦が始まるためにやや不安げな顔のニコルを、アスランは少しでも励まそうとしていたのだ。そこに、シリアスな雰囲気をぶち壊す者がやって来た。
「あ~ら、ニコル。元気無いわねえ。」
「ね、ね、姉さんっ!やっ、止めて下さいよっ!」
ニコルは、真っ赤になって大声をあげた。だが、それも仕方ないだろう。アスカの手は、ニコルの太股の付け根にある大事なモノをしっかりと掴んでニギニギしていたのだから。ちょっとニギニギしてから、アスカは明るく言った。
「まあ、そう言わずにさ。もうちょっと、元気出してよね。」
アスカは、ニコルの後ろからしがみついて、胸をぐりぐりと押しつけた。
「ちょ、ちょっと、姉さん。何をするんですかっ!本当にもうっ!やっ、止めて下さいよっ!」
ニコルの抗議の声は、裏返っていたために迫力が全然無かった。
「ありゃ、ニコル。何だか元気になったわよ。うん、よしよし。いいから無事に帰って来なさいよ。」
アスカは、ニコルの身体の一部が元気になったことを確認すると、嬉しそうにウンウンと頷いた。だが、ニコルはもう、泣きそうだった。
「姉さん、そりゃあないですようっ……。」
そうして、今にも涙を流さんばかりだった。だが横で、アスランが声を殺して笑っている。
「ふうん、アスラン。余裕じゃない。アンタもこうよっ!」
今度は、アスカはアスランの後ろからしがみついて、胸をぐりぐりと押しつけた。
「うわっ、参ったよ。降参するから、許してくれよ。」
などと言いながらも、アスランはあんまり困った様子ではない。むしろ、喜んでいるようだ。
「ちっ。ラクスで慣れてるわね。」
だがアスカが小声で囁くと、今度はアスランの顔が真っ赤になってしまった。
「まあ、いいわ。アンタ達に渡したいものがあってね。はい、どうぞ。」
そう言いながら、アスカは二人に2本ずつ縮れた短い毛を差し出した。
「えっ。これ、一体何ですか。」
首を傾げるニコルに、アスカはお守りだと説明した。だが、アスランがニコルの耳元で何かを囁くと、途端にゆでだこのように真っ赤になった。
「ね、姉さん。これは……。」
「アタシの『髪の毛』よ、『髪の毛』。それ以外の何物でもないわよ。いいから、肌身離さず持っていなさいよ。」
「で、でもっ……。」
嫌がるニコルに、アスカは肩をすくめてロケットペンダントを取り出した。ロケットは、丸いタイプだった。アスカはロケットを開けて、そこに『髪の毛』を入れる。
「はい、これならいいでしょ。」
にっこりと笑うアスカに、ニコルは逆らえなかった。ニコルはため息をつきながら、ペンダントを首にかける。
「はい、アスランもよ。」
これまたアスランも、ペンダントを首にかけた。
「ああ、言っておくけど、ニコルのロケットの中には家族4人で写した写真が入っているからね。」
「は、はい。姉さん、ありがとう。」
ニコルは、アスカの気遣いに嬉しくなり、思わず涙を流しそうになる。
「アスランは、ラクスとアタシの写真よ。いいわよね。」
「ええ、もちろん。アスカ、ありがとう。」
本当は、ラクスだけの写真の方がいいのかもしれないが、アスランの優しい性格ではそんな不満を言うはずがなかった。
「で、『髪の毛』も1本はラクスのだから。」
「えっ……。」
アスランの顔は、さきほどのニコルにも負けない位真っ赤になった。そこに、ミゲル達がやって来た。
「おっ、なんだよっ!いいなあっ、俺も欲しいなあっ!」
「いいなあっ。羨ましいなっと。」
どうやら、隠れて話を聞いていたらしい。ニコル達がもらったものを凄く欲しがった。
「フン!バカ言わないでよね。」
そこでアスカは、頬を膨らませてそそくさと出て行った。
「ちぇっ。残念だな。」
「あ~あ、いいなあっ、いいなあっ。俺もあんな姉さんが欲しいなあっ。」
「美人の婚約者が欲しいなあっ。」
「「「いいなあっ!」」」
ミゲル、ラスティ、ディアッカの3人は、心底羨ましそうな顔をする。だが、イザークは不満そうだった。
「フン、くだらん。迷信など……。」
そう、この時代においても迷信はあった。女性のとある部分の『髪の毛』を持っていると、戦いから必ず生きて戻れるという迷信が。アスカはそれを知っていたからこそ、ニコルに自分の『髪の毛』を、アスランに自分とラクスの『髪の毛』を渡したのだ。もっとも、他にも理由があるのだが。
「でもなあ、羨ましいぜ。ニコル、悪いがちょっとだけ見せてくれよ。アスカのマン……「『髪の毛』よっ!」」
ミゲルの言葉を遮って、アスカが大声をあげた。皆がアスカの方を向くと、アスカは何故か痛そうに股間をさすっていた。
「しょうがないわねえ。アンタ達の分もあげるから、ニコルのお守りを取らないでよね。」
アスカがそう言いながら『髪の毛』を渡すと、ディアッカ、ミゲル、ラスティの3人は飛び上がって喜んだ。
「おおっ!グゥレイトォーーーーーーーーッ!」
「マジかよっ!すっげえええええええええっっっっっっっっっっっ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっっっっっっっっ!」
ところが、なんとイザークは断った。すると、アスカはイザークの耳元で囁いた。
「ふうん、ママの『髪の毛』持ってるのね。」
「ち、違うっ!」
途端にイザークは真っ赤になる。いくらなんでも、それはない。イザークは母親想いというだけで、マザコンではないし、例えマザコンだったとしてもそこまでしたら異常だ。
「じゃあ、好きな女の子でもいるの?」
「いるわけないだろっ!」
畳みかけるアスカに、イザークはさらに真っ赤になる。実は、好きな女の子は目の前にいるのだが、イザークが言えるわけがないし、アスカもそんなことは気付かない。
「じゃあさ、好きな女の子から貰えるまでの間、アタシのを持ってなさいよ。ねっ、そうしなさいよ。」
小首を傾げてにっこりと笑うアスカに、イザークはぶっきらぼうに『髪の毛』を受け取った。
「そ、そこまで言うなら貰ってやる。」
すると、アスカは再びにっこりと笑い、拳を握って突き上げた。
「いい、野郎ども!アタシのお守りを無駄にするんじゃないわよっ!絶対に生きて帰ってくるのよ!いいわねっ!」
「「「「「「おーっ!」」」」」」
皆が拳を突き上げると、何故かアスラン、ニコルやイザークまでもが同じ動作をしていた。アスカは、既にクルーゼ隊のパイロット連中をほぼ掌握しているようだった。さすがはアスカ、恐るべし。
さて、ヘリオポリスでは、ザフトの襲撃が間近であることなど知るはずもなく、市民は平和な暮らしを満喫していた。その中で、工業カレッジに通う学生、キラ・ヤマトは、パソコンの画面で、ニュースを見ていた。そこにキラの友人であるトール・ケーニヒが声をかけた。
「キラ、こんなところにいたのかよ。カトウ教授がお前のこと探してたぜ。」
「またあ?」
キラは、嫌そうな顔をする。
「見つかったら、直ぐに引っ張って来いって。」
一緒にいた、トールの恋人のミリアリア・ハウも続けて言う。
「しょうがないなあ。」
キラは、嫌々ながらも立ち上がった。そうして3人でカトウ教授のオフィスに向かうことになったが、途中でミリアリアが友人のフレイ・アルスターと出会い、同じく友人のサイ・アーガイルの話が出た。フレイが、友人のサイから手紙をもらったという話だった。密かにフレイのことを気に入っていたキラは、ちょっぴり気になった。
トール達と一緒にゼミのカトウ教授の部屋に行くと、キラと同じ歳の、深く帽子を被った少年らしき先客が待っていた。そして、友人のサイ・アーガイルも。
「おい、キラ。これ、カトウ教授から。追加だって。」
サイがキラにディスクを渡すと、キラは思いっきり嫌な顔をした。そのうえ、先客がキラにいきなり聞いてきた。
「おい、お前。カトウ教授の部屋は、ここでいいんだよな。」
「は、はい。」
「そうか。」
その少年はドアを開けようとしたが、その時急に爆発音がして建物が揺れた。ザフトの攻撃が始まったのだ。
ザフトの攻撃は、アスラン達5人の赤服と5人の一般兵、併せて10人ほどの部隊の潜入から始まった。アスラン達は手分けして各所にタイマー式の爆弾を仕掛けていく。それから2隻の船からザフトの誇る機動兵器-モビルスーツと呼ばれている、高さ18メートルほどの人型ロボット-である「ジン」が出撃した。クルーゼ隊長はその後直ちに電波妨害を行うよう指示した。
電波妨害とモビルスーツの発進に気付いたヘリオポリス側は、迎撃のために戦闘艇を発進させた。ザフト軍のジンは戦闘艇と戦闘に入ったが、機動性に勝るジンは次々と戦闘艇を破壊していく。
一方、何体かのジンがヘリオポリス内に侵入した。そのタイミングで、アスラン達の仕掛けた爆弾が次々と爆発していく。その爆弾は、地球連合軍の新造戦艦アークエンジェルをも爆発に巻き込んだ。そして、アークエンジェルの艦長以下主な乗組員が待機していた場所でも爆発し、殆どの乗組員が倒れた。
同じ頃、アスラン達潜入部隊は物陰からヘリオポリス内を観察していた。すると、情報通り地球連合の機動兵器を運ぶトレーラーが確認された。
「あれだ。クルーゼ隊長が言った通りだ。」
イザークが、不敵に笑う。
「つつけば慌てて巣穴から出てくるって。やっぱり間抜けなもんだ。ナチュラルなんて。」
ディアッカも笑うが、ニコルの一言で真っ青になる。
「姉さんに言いつけますよ。」
「うわっ、待てっ。冗談、これは冗談だよ。」
ナチュラルであるアスカの耳に、そんなことがばれたら絶対に怒られる。ディアッカは大慌てとなった。そんな二人を横目で見つつ、イザークはジンに乗った仲間に連絡した。連絡を受けた仲間は、早い連絡に感嘆した。
「お宝を見つけたようだぜ。セクターS、第37工場区。」
「さすが、イザークだな。早かったじゃないか。」
ジンに乗ったミゲル達は、イザークの情報に基づいて地球連合軍のトレーラー群を急襲する。ジンは重突撃機銃を撃ちまくり、連合軍のトレーラーや兵器を次々に破壊していく。ジンの攻撃が一段落し、連合軍の攻撃が下火になってから、宇宙服に身を包んだアスラン達が軽機関銃を乱射しながら向かっていく。
だが、5体あるという情報の機動兵器が3体しかないため、アスラン・ラスティ他数名が別れてトレーラーが出てきた地点へと向かった。本隊のイザーク達は次々と地球連合軍の兵士を撃ち倒し、イザーク、ディアッカ、ニコルの順に新型機動兵器の奪取に成功し、ヘリオポリスから脱出していった。
爆発があった後、キラ達は逃げることにした。だがキラは、逃げる途中で少年が避難経路から外れて行くのを見て、心配になって一人でその後を追いかけた。その少年になんとか追いついた時、爆風が少年の被っていた帽子を飛ばした。そこで初めて、キラはその少年が女の子であると気付いた。
「女の子……。」
キラが呟くと、その少年……ではなくて少女は不満そうな顔になった。
「なんだと思っていたんだ、今まで。」
キラは少女に謝りつつも、辺りを見渡した。今の爆発で、来た道は塞がれていた。そのため、まだシェルターが生きていると思われる工場へと向かったのだが、そこでキラはロボットらしきものを見た。すると、少女は崩れ落ちるようにして跪いた。
「ああ、やっぱり地球軍の新型機動兵器。お父さまの裏切り者!」
少女が叫びをあげると、そこを銃弾が襲った。
「早く、こっちに来てっ!」
キラは、その少女を連れてシェルターを探し回った。そして、やっとシェルターを見つけたが、定員を理由に断られた。だがキラは、女の子だけでもと頼み込んで、なんとかその少女をシェルターに入れてもらうことにした。
「僕は、キラ・ヤマト。大丈夫だよ、きっと助かるよ。」
キラは、その少女に微笑んだ。
「私は、カガリ。お前も、達者でな。」
こうして、二人は別れた。後に二人は再び出会うことになるのだが。
イザーク達と別れた後、トレーラーが出てきた場所、モルゲンレーテ社という兵器開発会社の工場に入ったアスラン達は、激しい銃撃戦を展開した。どうやら相手に白兵戦のプロが殆どいないらしく、敵は次々と倒れていった。
だがその時、アスランの隣で軽機関銃を乱射していたラスティに銃弾が当り、ラスティは倒れた。
「ラスティ!」
アスランは怒りに震え、銃を乱射しながら突撃していった。そこに巨乳でオレンジのつなぎを着た女性が立ちふさがったが、アスランは冷静に女性の肩を撃ち抜いた。だがそこで弾切れとなったため、ナイフを抜いて向かって行った。
「アスラン!」
そこに、キラの声がした。キラは、横から飛び出してきて、女性の前立ち止まった。しばし、二人は呆然となった。その隙に女性は銃を構えたが、アスランの後ろから銃声がして女性の肩を撃ち抜いた。振り向くと、ラスティが立っていた。
「ラスティ!無事だったのか。」
「ああ、お守りのおかげかもな。」
ラスティはそう言って笑う。アスランは再び前を向き、キラ達に叫んだ。
「おい、お前達。ここから早く逃げろ。」
「おいおい、こいつらを見逃すのかよ。」
ラスティは慌てて止めようとするが、アスランは首を振った。
「怪我をした女性に、見るからに民間人の少年だ。俺達は、弱い者を喜んでなぶるような地球連合軍とは違う。そうだろう?」
「ああ、分かったよ。おい、お前達。俺の気が変わらないうちに逃げろ。」
ラスティが銃を向けると、キラはその女性を連れて逃げ出した。キラは、逃げる途中何度もアスランの方を振り返った。アスランも、しばらくキラを見つめていた。だが、そこにラスティが声をかけた。
「おい、アスラン。俺はこれに乗る。ほれ、銃を渡すぞ。」
銃の腕はアスランの方がいいため、ラスティはすぐ近くにあった地球連合軍の新型機動兵器-モビルスーツ-のコクピットに乗り込んだ。
「ああ、分かった。」
アスランは、急ぎその場を離れて残る敵を撃ち倒した。そして同じく、地球連合軍のモビルスーツのコクピットに乗り込んだ。
「ふうっ、ラスティは危なかったわね。」
ザフトの戦艦ヴェサリウスの自室で待機していたアスカは、そう呟くと目を開いた。
「さあて、ニコルを出迎えなくちゃね。」
アスカはハンガーへと向かったが、着いた時に丁度ニコルが奪取した地球連合軍の新型機動兵器から降りて来るところだった。
「ニコル!良く無事に帰った来たわね。」
「ええ。姉さんのおかげですよ。」
ニコルが床に降りると、アスカはニコルを抱きしめた。
「良かった、本当に良かった。」
「ちょ、ちょっと姉さん。恥ずかしいですよ。」
そう言いながらも、ニコルはアスカを無理に引き離そうとはしなかった。しばらくすると、アスカはようやくニコルから身体を離した。そして、ニコルが運んできたモビルスーツを見上げた。
「へえっ、結構格好いいじゃない。これ、なんて言うの?」
「確か、敵はG兵器と呼んでいて、ブリッツって言います。」
すると、アスカは首を傾げた。
「なんかさあ、もっと良い呼び方ないの?」
ニコルは、これを起動した時に出てきた文字を思い出した。確か、頭文字をつなげると……。
「そうですねえ。OSを起動する時に浮かんだ言葉の頭文字をつなげると、GUNDAM、ガンダムになりますかねえ。」
「へえっ、ブリッツガンダムねえ。うん、いいわ。それに決まりね。」
これ以降、アスカの強い主張によって、この兵器はガンダムと呼ばれることになるのだが。
そこに、ディアッカが声をかけた。
「おい、どうやらアスラン達も成功したみたいだぞ。」
「「やった!」」
アスカとニコルは同時に笑顔で叫び、飛び上がって喜んだ。
こうして、5体のガンダムをザフトはほぼ無傷で手に入れた。クルーゼ隊の作戦は、大成功だった。
Red Warrior character1 [Red Warrior]
Red Warrior in the Seed World
キャラクター一覧(年齢は、C.E.70.12末現在)
※種キャラの年齢設定等は、原則として公式ガイド等に準じます。また、某公式ホームページに殆どの種キャラの絵が掲載されています。
◎プラント及びザフト軍の登場人物
(高校2年生に相当)
◎ミゲル・アイマン(17歳)[コーディネイター]
ザフト軍パイロット。金髪を七三分けしていて、クールな感じ。ガンダム奪取作戦の際、ジンに搭乗する。性格は陽気で人当たりが良く、先輩としてアカデミー時代のアスランやイザーク達の面倒をよく見ていた。
◎ディアッカ・エルスマン(16歳)[コーディネイター]54/3/29生
ザフト軍赤服パイロット。短い天パーの金髪。肌が浅黒く、精悍な顔つきをしている。バスターガンダムに搭乗。基本的に陽気な性格だが好戦的な一面もある。ナチュラルを見下しており、イザークとよくつるんでいる。
(高校1年生に相当)
◎ラスティ・マッケンジー(16歳)[コーディネイター]
ザフト軍赤服パイロット。紅茶色の髪で、碧眼。アスラン、イザーク達とはアカデミー時代の同期生同士。明るくさばけた性格。
◎イザーク・ジュール(16歳)[コーディネイター]54/8/8生
ザフト軍赤服パイロット。白銀の髪でおかっぱ頭。意地悪なおぼっちゃま風な感じ?デュエルガンダムに搭乗。アスランにエースパイロットの座を奪われ、彼に対し粘着質な感情を持つ。
◎惣流・アスカ・ラングレー(16歳)[ナチュラル?](54/12/4生)
主人公で、ザフト軍赤服パイロット。ジンに搭乗。現在は、アスカ・アマルフィと名乗っている。義弟のニコルを溺愛している。金髪碧眼のスーパー天才美少女だが、皆に隠している能力がある。
◎ラクス・クライン(15歳)[コーディネイター]55/2/5生
長いピンクの髪で、優しそうな雰囲気の美少女。アスランの婚約者でアスカの親友。アスランから贈られたハロが大好き。
(中学3年生に相当)
◎アスラン・ザラ(15歳)[コーディネイター]55/10/29生
ザフト軍赤服パイロット。黒髪で、おでこを見せている。世間知らずのおぼっちゃま風な感じ。イージスガンダムに搭乗。ラクスの婚約者でニコルの親友。血のバレンタインで母親が亡くなったため、ザフトへの入隊を決意する。
◎ニコル・アマルフィ(14歳)[コーディネイター]56/3/1生
ザフト軍赤服パイロット。天パーの薄い緑灰色の髪。肌が白く、優しい雰囲気。ブリッツガンダムに搭乗。ピアノを愛する優しい少年で、アスランを兄のように慕う。
◎アデス[コーディネイター]
ガンダム強奪作戦に赴いたヴェサリウスの艦長。
◎ラウ・ル・クルーゼ(27歳)[ナチュラル?]
ザフト軍の軍人でアスランたちの上官。常に仮面で素顔を隠している謎多き人物。
◎ロミナ・アマルフィ[コーディネイター]
ニコルの母で、アスカの義母。上品で優しい女性。
◎ユーリ・アマルフィ[コーディネイター]
ニコルの父で、アスカの養父。最高評議会議員でロボット工学専門家
◎レノア・ザラ[コーディネイター]
アスランの母。農学者。血のバレンタインによって死亡した。
◎パトリック・ザラ[コーディネイター]C.E.23生(スカンジナビア王国出身)
アスランの父。最高評議会議員で国防委員長
◎シーゲル・クライン[コーディネイター]C.E.22生(大西洋連邦出身)
ラクスの父。最高評議会議長
(注1)[コーディネイター]生まれる前に、遺伝子操作を受けた人間
(注2)[ナチュラル]生まれる前に、遺伝子操作を受けていない人間
(注3)赤服パイロット:ザフト軍のエリートパイロット
Red Warrior Phase2 [Red Warrior]
Red Warrior in the Seed World
PHASE2 卒業式
ZAFT(ザフト)という軍隊に入ったアスカは、ニコルやアスラン達と一緒の士官学校(アカデミー)に入り、厳しい訓練に明け暮れた。そこでアスカは、他人に自分の並外れた能力を疑われない程度に徐々に力を発揮していった。だがそのことによって、別の効果も現れた。最初はナチュラルの女であるアスカに良くない感情を持っていた者も多かったが、アスカの真剣な訓練態度や、目に見えて上がっていく成績を目の当たりにして、考えを改める者が徐々に増えていったのだ。
また、アスカは仲間と打ち解けるためにそれまでのおしとやかな態度を改め、明るく気さくで陽気な性格を前面に打ち出した。普通の女の子ならば顔をしかめるようなお下劣な話題にも、積極的に加わった。それにより、男から何でも気軽に話せる女という評価を受け、特にモビルスーツ(MS)のパイロット連中の受けが良くなった。だがその一方で、年下の女の子に慕われるという副作用?もあった。
ナチュラルであるにも係わらず入隊した動機についても、何度も繰り返し聞かれたが、アスカはこう答えることにした。『クラスメートを皆殺しにされたのよ。他に理由がいるの?』と。最初はそんなアスカの言葉を疑っていた者も多かったが、以前のアスカがおしとやかで争いを好まない、綺麗で長い髪が自慢の美少女であったことが知られるにつれて、疑いは感心と感動、感激にとって代わっていった。
何人かのクラスメートの母親が、士官学校の学生からアスカが自慢の髪の毛をばっさり切って入隊したことを聞いて、その場で泣きだしたこともそれに拍車をかけた。その母親達は、アスカが自慢の長い綺麗な金髪を命の次に大事にしていたと知っていたから。髪を伸ばしていれば、いつか記憶が戻るかもしれないと、アスカが願掛けをしていたのを知っていたから。アスカがどんな悲痛な想いで髪の毛を切ったのかを、分かってしまったから。その母親達から事情を聞いた者も、溢れる涙を止めることは出来なかったという。
一方、戦局は膠着状態であった。
その頃地球には、米・英・加による大西洋連邦、EU諸国によるユーラシア連邦、中・日・韓などの東アジア共和国などが地球連合軍の中核国家として成立し、プラントに対して宣戦布告していた。ところが、それ以外の国家のうち、クライン議長による中立勧告を受諾した南米諸国の集まりである南アメリカ合衆国は、連合軍の武力侵攻を受けて大西洋連合に併合されてしまった。オーストラリア周辺国の集まりである太洋州連合はこれを批判し、プラント支援を表明。地球連合は、大洋州連合に対し宣戦布告した。
その後、連合の月への橋頭堡である「世界樹」というコロニーを巡って地球連合は第1~第3艦隊を投入し、激戦となる。この時、ラウ・ル・クルーゼという名の英雄が現れ、ザフトのMS、ジンにて敵モビルアーマー(MA)37機、戦艦6隻を撃沈し、ネビュラ勲章を受章した。
3月になると、ザフトは食料確保の目的などから地上への侵攻を開始したが、地上戦力の支援が無かったために敗退した。これは、「第一次ビクトリア攻防戦」と呼ばれた。
4月になると、「オペレーション・ウロボロス」を発動し、地上に核分裂抑止能力をもつ「ニュートロン・ジャマー」を散布した。これにより、地球連合は深刻なエネルギー危機に陥り、餓死者もでるようになり、人々の反プラント、反コーディネイター感情は高まった。その混乱に乗じて、オーストラリア地区の湾、カーペンタリアに軌道上から基地施設を分割降下させ、48時間でカーペンタリア基地の基礎を建設した。これは「カーペンタリア制圧戦」と呼ばれた。
これに対して、地球連合は月から第5・第6艦隊をプラント本国に向け侵攻。プラント管理下の資源衛星「ヤキン・ドゥーエ」付近にて、迎え撃つZAFT軍と交戦した。これは「第一次ヤキン・ドゥーエ攻防戦」と呼ばれた。
5月になると、カサブランカ沖で、連合軍の地中海艦隊とZAFT潜水空母艦隊が衝突。この戦いに勝利したZAFTは地中海に侵入し、アフリカ北岸より侵攻を開始するとともに、ジブラルタル基地の建設を開始した。これは、「第一次カサブランカ沖海戦」と呼ばれた。
その後、エル・アラメインにて、連合軍とZAFT地上軍が激突。ここにもアンドリュー・バルトフェルドという名の英雄が現れ、ユーラシアの大戦車部隊に対し陸戦用4足歩行MSの「バクゥ」が多大な戦果を上げた。これ以後、双方の戦いは小競り合いが続いた。
そして……。
C.E.(コズミック・イラ)70年9月20日
アスカ達は、士官学校を無事卒業した。卒業生総代は、総合成績がトップのアスランだった。2位はイザーク・ジュールという、マティウス市選出の評議員の息子、3位はニコル、4位はディアッカというフェブラリウス市選出の評議員の息子、5位はラスティというクインティリス市選出の評議員の息子、アスカは10位だった。アスランがディセンベル市選出の評議員の息子であり、ニコルがマイウス市選出の評議員の息子であるため、トップ10の過半数を評議員の子女が占めていたことになる。
卒業式では、その場で配属される部隊が発表され、即日配属されることになっていた。アスカは息を飲んで発表を待ったが、結果は喜ぶべきものだった。ネビュラ勲章を受章したザフトの英雄であるクルーゼという男の部隊に配属が決まったが、なんとニコルが一緒の部隊になったのだ。そのうえ、アスランも一緒だった。
「やったわね、ニコル。これでこれからも一緒よ。アスランもね。」
ニコニコ笑うアスカに、ニコルやアスランも笑顔で応えた。
「そうですね、僕が一緒だと姉さんを守ってあげられますからね。」
「俺も、ラクスからアスカをよろしくって言われてるしな。」
二人はそう言いながら右手を差し出した。アスカもそれに倣う。3人の右手が重なった時に、アスランが声をあげた。
「一刻も早く、この世界が平和にならんことを切に願う。」
「「一刻も早く、この世界が平和にならんことを切に願う。」」
アスカとニコルも、アスランに続けて言い、3人で固く握手をするのだった。するとそこへ、イザークとディアッカが連れ立って通りかかった。
「フン、バカバカしい。」
イザークは、3人の行動を見て鼻で笑った。アスランは怒ってイザークの所へにじり寄ろうとするが、アスカはそれを押し止めた。
「丁度いいとこに来たじゃない。これから同じ部隊の仲間になるんだし、一緒に写真でも撮ろうよ。ねっ、いいでしょ。」
アスカは、半ば無理やり二人の肩を抱いて連行した。
「ねえっ、そこのミゲル!ラスティもっ!こっちに来なさいよっ!みんなで写真撮ろうよっ!」
そして、これまた近くを通りかかった同期生に声をかけた。
「おおっ、いいねえっ。」
「記念になるもんな。」
ミゲルは陽気で人当たりが良く、先輩としてアスランやイザーク達の面倒をよく見ていたため、最初は嫌がっていたイザークも渋々写真を撮ることを承知した。イザークは群れることを嫌うため、写真をみんなで撮ることには反対するであろうと予測したアスカが、イザークが逆らいにくい先輩を呼んだのだ。アスカの作戦勝ちである。
「じゃあさ、最初は思いっきり真面目な顔してよね。」
アスカの提案で、最初はみんな真面目な顔をして写真を撮る。
「で、次は好きなポーズを決めて。」
アスカが促すと、一番右でディアッカが目を瞑って敬礼した。口は大きく開いている。
イザークはその左で、澄ました顔をしながらミゲルの腕を掴む。
ミゲルは腕組みをしながら、偉そうな顔をしてふんぞりかえる。
その左でラスティが微笑む。
一番左には、アスランがややぎこちなく微笑む。
ラスティの前では、ニコルが制帽を被り敬礼しながら右手で笑いながらピースサインをする。
アスカはミゲルの前で、ニコルと対になるように制帽を被り敬礼しながら左手でピースサインをする。
「ようし、みんなそのままよっ!」
次にアスカはアスランの肩を掴んで引き寄せ、ニコルの肩も掴んで両手に美男子状態になる。いきなりのことに、ニコルもアスランも真っ赤になった。まあ、無理も無い。実は頬がくっついていたのだから。
「あっ、いいなあっ。」
それを見たミゲルが、思わず羨ましそうな顔をする。アスカはそれを聞いてクックックッと笑った。
「分かってるわよ。次は、ミゲルとラスティね。」
アスカの言葉に、ニコル・アスランは、ミゲル・ラスティと場所を入れ換える。
「おおっ、いいねえっ!」
「今日は最高だな!」
アスカと頬をすり合わせた二人はニコニコである。
「はい、次はイザークとディアッカよ。」
「おうっ、待ってました。」
喜ぶディアッカと対照的に、イザークは眉間に皺を寄せた。
「ふざけるなっ!なんで俺がそんなことをしなければいけないんだっ!」
怒鳴るイザークに、アスカはケラケラ笑った。
「なあに、色気付いているのよ。アタシをママだと思えばいじゃない。」
「なっ、なんだとっ!」
イザークは真っ赤になって怒った。自分がマザコンだと言われたと思ったからだ。
「へえっ。イザークはママが嫌いなんだ。ふうん。」
ニヤニヤ笑うアスカに、イザークは頭に血が昇った。
「ち、違うっ!」
「じゃあ、いいじゃん。」
アスカは、有無を言わせずイザークの肩を掴んで、もう片方の手でディアッカの肩を抱いた。
「はい、今よ。撮って、ニコル。」
「はい。」
ニコルはすかさずリモコンのスイッチを押した。
「はーい、ご苦労さん。写真は後で大きくして渡すから。楽しみに待っててね。」
アスカは、何故かニコニコしていた。そこに、イザークが噛みついた。
「ふん、何がそんなに嬉しいんだ。おかしな女だな。」
「だってさ、卒業式ってなんだか嬉しいんだもん。いいじゃない。」
「お前、バカか?卒業式なんて、初めてじゃないだろ?」
それを聞いた瞬間、アスカは動きを止めた。ニコルとアスランは、そんなアスカを見て真っ青になる。
「……だもん。」
その時アスカは、俯いて何かを呟いた。
「ああっ?聞こえないぞ。」
イザークは、更に大声になった。ミゲルがイザークの口を押さえようとしたが、間に合わなかったのだ。
「初めてだもん、卒業式なんて。だって、みんな殺されちゃったから……。」
アスカは、とうとう泣きだしてしまった。そう、アスカには小学校の卒業式の記憶は無く、中学校の卒業式は無かったのだ。同級生は皆殺しにされたため、アスカは卒業証書を寂しく独り校長室で受け取ったのだ。だから、初めての卒業式が嬉しくてたまらなくて、今日は普段に増してハイテンションだったのだ。
「このバカ!」
「テメエ、死ねっ!」
「女の子を泣かすなんて、サイテーだぞ!」
ミゲル、ディアッカ、ラスティは、そう言いながらイザークの頭を次々に思いっきり叩いた。イザークは、かなり痛そうにしながらも、アスカに謝った。
「……俺が悪かった。済まない、許してくれ。」
そうして、アスカが泣き止むまでイザークは頭を下げ続けた。イザークは口は悪いが、根は結構優しい奴なのかもしれない。
「ほう、赤服が6人もか。それは豪勢だな。」
卒業式が終わった頃、英雄クルーゼは自分の乗艦の艦長であるアデスから、新たに配属される隊員の報告を受けて驚いていた。
「ええ、これは凄いですよ。あの、ザラ委員長のご子息はもとより、赤服全員が評議員の子女ですから。」
「ん、赤服に女がいるのか。珍しいな。何っ、ナチュラルだと。それが赤服だと?何かの間違いだろうな。」
クルーゼは、眉間に皺を寄せた。
「いえ、間違いありません。ナチュラルです。」
「しかし、よくナチュラルがザフトに入れたもんだな。ふん、ユーリ評議員の養女か。ザラ委員長も、同じ評議員の横やりは押さえられなかったということか。」
「いえ、そのザラ委員長のご推薦です。その女は、ザラ委員長のご子息と仲が良く、ザラ委員長からも気に入られているとか。」
「それは信じられんな。まあいい。そのうち委員長には私から聞いてみよう。案外、政治的な理由があるかもしれん。まあ、当面は待機要員だな。本人の希望は何かあるのか。」
「はい、偵察任務を希望とありますが。」
「ならば、うってつけだな。危険な時だけ別の者を使えば良い。」
実はアスカは、危険な強行偵察任務を希望していたのだが、アスカの意に反して安全な任務が与えられることになってしまった。
Red Warrior Phase1 [Red Warrior]
Red Warrior in the Seed World
PHASE1 血のバレンタイン
アマルフィ家の養女となったアスカは、優しい養父母やニコルと穏やかな生活を過ごした。
養父のユーリ・アマルフィは、最高評議会議員でロボット工学専門家であり、最近はモビルスーツと呼ばれる人型の軍事用ロボットに関する仕事が忙しいために家に帰らないことも多かったが、家の中には仕事を持ち込まず、常に笑顔を振りまいていた。
養母のロミナ・アマルフィは、特に仕事はしていなかったが、週に2回ほど近所の子供達にピアノを教えていた。とても上品なうえに優しくて、裏表の無い女性だった。アスカは、自分も大人になったらこんな女性になりたいと憧れる様になっていった。
義弟のニコルは、とても優しくて温かいい雰囲気を持つ少年だった。幼い頃からロミナにピアノを習っており、暇さえあればピアノを弾いていた。そして、アスカのことを実の姉のように慕ってくれた。
みんな、アスカを家族の一員として受け入れ、時には優しく、時には厳しく、本当の家族のように接してくれた。いつしかアスカは、彼らのことを本当の家族のように思う様になっていった。
そして、アスカは体調が万全になると、女子校にも通うようになった。太陽の様に明るく朗らかなうえに、ロミナの影響を受けて優雅でおしとやかに振る舞うアスカには、親しい友人も大勢出来た。
友人は同年代の女の子だけではなかった。ロミナの友人のレノアや彼女の子供であるアスラン、その友人達とも仲良くなっていった。
弟のニコルは、アスランを兄の様に慕った。その頃には、アスカはニコルの保護者を自認するようになっていたため、変な話ニコルの取り合いのようなこともしばしば起きるようになった。
そのうち、アスランの婚約者のラクスもアマルフィ家を訪れるようになり、ニコルを取られた形になったアスカは、当てつける様にラクスと仲良くするのだった。
そんな中、アスカは徐々に自分を取り巻く状況が分かってきた。
アスカが住む世界の情勢については、次のことが分かってきた。
最後の核兵器が使用された年を元年とする、Cosmic Era(コズミック・イラ)という暦が使われていること。
アスカが住んでいるのは地球ではなくて、プラントと呼ばれる宇宙コロニー群の中であること。
プラントに住んでいる者の殆どが、コーディネイターと呼ばれる遺伝子改変を受けた人間であること。
これに対し、遺伝子改変を行っていない人間は、ナチュラルと呼ばれていること。
ブルーコスモスと呼ばれる団体が、コーディネイターに対してテロ行為を行っていること。
そのため、コーディネイターはプラントに移住する者が多いこと。
プラントに住むコーディネイターは、食料の生産や武装を禁じられてきたが、これに反対する動きが活発になっていること。
これに伴い、最近色々なトラブルが起き、それが拡大していること。
戦争が起きるのではないかという噂が、急速に広まっていること。
アスカやその家族の知人・友人については、アスカが知り得たのは次のことだった。
ロミナの友人であるレノアは農学者であり、プラントの食料不足を解決するための研究に心血を注いでいること。
レノアの夫はパトリックといい、ユーリと同じ最高評議会-プラントの最高意思決定機関-の議員であるとともに、国防委員長であること。また、近年結成されたザフトというプラントを防衛するための軍事組織の幹部であること。
レノアの息子のアスランは、6歳頃から7年間も月の幼年学校に通っていたこと。
アスランの婚約者であるラクスは、歌が上手であり、歌姫とも呼ばれていること。
ラクスの父親は、ユーリやパトリックと同じく最高評議会議員であり、議長でもあること。
また、過去の記憶も断片的なものではあるが、ごく一部が戻っていた。だが、それが原因でごくたまに悪夢を見てうなされることがあったが、そんな時はロミナが添い寝をしてくれたため、直ぐに収まった。
こうしてアスカは、優しい家族や親しい友人に囲まれて、のんびりとした平和な生活を過ごしていた。
だが、平和な日常は、唐突に終わりを告げることになる。
C.E.(コズミック・イラ)70年2月14日
アスカは、楽しみにしていた学校行事である施設見学を、急に怪我をしたニコルを看病するために欠席していた。
「ごめんね、姉さん。」
家のベッドの上で、ニコルは本当に済まなさそうに言った。
「ううん、いいのよ。気にしないでね。姉さんはね、学校の行事なんかよりもニコルの方が大事だから。」
アスカは、にっこり笑う。それは、アスカの本心からの言葉だった。
「でもね、姉さん。その格好は止めてくれないかなあ。」
ニコルは、そう言って顔を赤くした。今のアスカは、上はヘソが見えるほど丈の短いタンクトップカットソーで下は超ミニスカートという、とってもラフというか悩ましげな格好だったからだ。白い太股とヘソは、特にニコルを悩ませた。
「へっ?何言ってるのよ、ニコル。きょうだいでしょ。気にしなくてもいいのよ。」
アスカは、気にしないでと言った。だが、ニコルはジト目となる。
「それに、姉さんは二重人格みたい。外ではラクスさんみたいにお姫様のようにおしとやかなのに、家ではそんな格好して。姉さんの実態を知ったら、みんな驚くよ。」
「あら、そう?アタシは別にかまわないわよ。」
ニコルにそう言われたアスカだったが、全然気にした様子は無かった。それどころか、何故かにっこりする始末。
「ふん、変な姉さん。」
ニコルは頬を膨らませたが、急に目を見開いた。ニコルの様子がおかしいのに気付いたアスカは、心配そうに尋ねた。
「ねえ、どうしたの、ニコル。」
だが、ニコルは真っ青な顔をしてテレビを指さした。アスカが振り向くと、テレビには大きなテロップが流れていた。
『地球連合軍、プラントに対して宣戦布告。ユニウス・セブンにて、核兵器を使用。死者・行方不明者は数千人を超える見込み。』
それを見たアスカは、思わず立ち上がった。
「そ、そんな……。みんなが施設見学に行った場所じゃない。」
これは、夢だ。そうに違いない。アスカはそう思い込もうとした。だが、夢ではなかったのだ。急速に顔から血の気が引いていくアスカに、ニコルが悲痛な声をかけた。
「姉さん、ここにはレノアおばさんが行っているはずなんだよ。」
「そ、そんな……。」
アスカは、拳を強く握りしめた。奇跡が起きて、皆が無事でありますようにと、心から祈った。だが、無駄だった。アスカのクラスメートも、アスカやニコルが敬愛するレノアも、二度と帰って来ることはなかった。この日の出来事を、プラントの人間は後に「血のバレンタイン」と呼ぶようになった。
数日後、アスカはニコルと初めて喧嘩をした。それも、取っ組み合い、殴り合う大喧嘩だった。発端は、ニコルが軍隊に志願すると言ったからだった。アスカは、物凄い剣幕で反対した。
「許さない、絶対に許さないわよ。アンタはねえ、平和な世界で暮らすべきなのよ。戦争なんかに行ったら、死んじゃうかもしれないのよ。死ななくても、軍人なんて性格がひん曲がるんだから。絶対に駄目ったら、駄目よ。」
だが、ニコルも猛烈に反論した。
「僕は、姉さんの操り人形じゃない。自分の意思があるし、もう一人前だよ。それに、もう決めちゃったんだ。明日、アスラン達と一緒に志願することに決めたんだ。いくら姉さんが反対しても、僕は行くよ。」
「お願い、ニコル。姉さんを見捨てないで。姉さん何でもするから、軍隊なんて行かないで。お願い、お願い……。」
アスカは、涙を流して懇願した。だが、ニコルの意思は固かった。
「嫌だ。僕は行くよ。このままじゃあ、プラントの人間は皆殺しにされるよ。そんなことは、絶対にさせない。父さん、母さん、姉さんは、僕が命に代えても守ってみせる。」
「そんなことして、アタシが喜ぶとでも思っているの?この、分からず屋っ!」
最初にアスカが手を出した。ニコルの頬が鳴り、真っ赤になる。
「やったなあっ!」
ニコルは。アスカに飛び掛かった。その後は、取っ組み合いの大喧嘩である。二人の喧嘩は、いつまでも続いた。
翌日、プラントの最高責任者であるシーゲル・クラインが、「血のバレンタイン」での犠牲者を弔う国葬を催した。これには、プラントの住人の多くが参加した。
もちろんこの国葬には、アスカ一家も参加した。アスランやラクスも出席していたが、泣きはらすアスランをラクスが励ましていたため、声をかけることは出来なかった。
アスカはこの時、悲しみと、絶望と、後悔の気持ちで一杯だった。
(ちくしょう、みんな殺されるなんて。あの子達が、一体何をしたっていうのよ。15歳のうら若き乙女達が、これからっていう時に死んでしまうなんて。みんな、夢があったろうに、恋をしたかったろうに、まだ生きていたかったろうに、それなのにっ!アタシみたいな女なら、地獄に落ちるのも分かる。でも、あの子達に悪い子はいなかった。アタシが代わりに死ねば良かったのよ……。こんなことなら、アタシも一緒に行けば良かった。そすれば、或いは……。ううん、今更そんなこと言っても始まらない。でも……。)
アスカは、自分を責めた。何度も何度も責め続けた。そしてアスカは、いつの間にか涙を流していた。
(確かに、昨日はニコルに反対したけれど、誰かが戦わないといけないのも事実だわ。自分の手を汚して地獄に行く人間を、少しでも減らすことが出来るなら、アタシは……。それに、お母さまのためにもニコルを守らなくては。ふっ、アタシもつくづく運の無い女よね。やっぱりアタシは、戦士なのよね。平穏な生活を続けるなんて、所詮は夢だったわ。でも、いいわ。みんなの仇を討つためなら、可愛いニコルを守るためなら、喜んでこの手を再び血に染めてやる。アタシは、今日から鬼になるわ。そうしないと、ニコルは守れないもの。この涙は、地獄へと舞い戻るアタシを、哀れむための涙……。)
アスカはこの時誓った。クラスメートの仇を討つことを、ニコルを守り抜くことを、自分の秘めたる力を解放して戦い抜くことを。
そしてこの国葬の際、シーゲル・クラインは独立宣言と「地球連合」への徹底抗戦を明言した。これが、長い戦争の幕開けであった。
その後、ニコルはアスランと共に、ZAFTと呼ばれる軍隊に入隊した。ZAFTというのは、C.E.68年に政治結社からパトリックの指導のもと解体・再編成され、プラント内の警察的保安組織と合併、モビルスーツを装備するようになった軍事組織である。
アスカも入隊を申請したが、コーディネイターではないという理由で認められなかった。
そのため、アスランの父でありレノアの夫であることから、アスカと面識があったパトリックに直談判して、特例として入隊を認めてもらうように頼んだ。アスカは、パトリックに友人やレノアの仇を討ちたいと涙ながらに訴えた。
これに対してパトリックは、レノアが生前アスカのことを自分の娘にしたいと言っていたことなどを伝え、軍隊に入ることは考え直すように諭した。パトリックは、レノアからアスカがおしとやかであると聞いていたため、軍隊には向かないと考えたのだ。
だが、翌日アスカは自慢の長い金髪をばっさりと切った姿で、再びパトリックに直談判した。そして、友人やレノアの仇をどうしても討ちたいと、泣きはらした目で訴えた。それを聞いたパトリックは、同じナチュラル同士で戦うことにためらいはないのかと尋ねたが、アスカはきっぱりと答えた。自分が戦うのはナチュラルという人間ではない。無力な女子供を無慈悲に殺す、ブルーコスモスを名乗る悪魔と、その手下共であると。
それを聞いたパトリックは、アスカの入隊を認めることにした。但し、アスカがナチュラルであること、運動能力が高いとは思われないことなどから、軍の後方勤務や広報に回されるだろうと考えたからであった。
こうして、ニコルより数日遅れで、アスカも軍隊に入隊することになったのである。
あとがき
○アスカがEOE後の世界からこの世界に来るまでの流れは、種世界の歴史とほぼ同じです。ですが、アスカがこの世界に来てからは、種世界の歴史とは少しずつ変わっていっています。ですから、似通った部分も多いでしょうが、種世界の「血のバレンタイン」以降のことは、全く別世界の出来事と思って下さい。
○アスカ以外の者がこの世界に来ているかどうかは、多分最後まで分かりません。ですから、今後エヴァキャラに見える者が出ても、エヴァ二次小説の定番というか十八番である、「名前は同じで(又は似ていて)も実は全くのオリキャラ」という「可能性」があります。
○主人公のアスカは、私の目から見た「こうだったらいいなと思う」エヴァアスカです。すなわち、碧眼のスーパー天才美少女なのに努力家で、表面上は明るいけど実は寂しがりやで、気が強くてわがままに見えるけど根は優しい、悪を黙って見過ごせない正義を愛する熱血少女で、人一倍負けず嫌いな性格だけど、どこか抜けててひょうきんな一面もある、そんな性格です。でも今は、記憶喪失であることや血のバレンタインの影響で、行動と性格がどこかかみ合っていないかもしれません。
Red Warrior Prologue [Red Warrior]
Red Warrior in the Seed World
プロローグ
「ち、ちくしょう……。」
全身傷だらけの少女が、うつ伏せに倒れた状態で呻いていた。
「アタシは、アタシは、絶対に生き延びるんだ。そして、絶対アイツに……。」
少女は、朦朧とした意識の中で、顔だけを上げて誰かを睨み付けているようだった。親の敵か恋人の敵でも見るような、深い憎悪と怒りを含んだような、そんな凄惨な表情をしていた。
「げほっ……。」
少女は、僅かに血を吐いた。どうやら、もう少女の体力は限界らしい。
「……は、コロシテヤル……。」
それでも、少女はまだ凄まじい殺気を発していた。だが、それも長くは続かなかった。とうとう少女は、力尽きて動けなくなってしまったのだ。少女は、ゆっくりと死に向かっていた。そのまま放置されていれば、少女は本当に死んでいたかもしれない。
「あら、あれは何かしら。」
少女が動きを止めて程なく、少女の側を偶然親子連れが通った。まだ小学生位の少年と、その母親だった。
「どうしたんですか、お母さま。」
少年が母親に聞いたが、母親は少年に静かにするようにと言って、少女が倒れている辺りに近付いた。そして少女の脈をとり、まだ生きていることを確認した。
「ねえ、ニコル。急いでお父さまを呼んできて。」
「う、うん。分かったよ、お母さま。」
ニコルは、慌ててその場を離れた。
その後、少女はニコルの家に運ばれ、医者の治療を受けることができた。少女は極度の栄養失調であり、そのために命が尽きようとしていたのだ。医者は少女に栄養注射をすると、2~3週間安静にしていれば元気になるだろうと言った。
このため、ニコル達はほっと一息ついたのだったが、大きな問題が持ち上がった。翌日目覚めた少女と話をしたところ、少女はなんと記憶が無いと言うのだった。少女が覚えているのは、自分の名前がアスカということのみだった。
その後、方々手を尽くして少女の手がかりを探したのだが、少女のことは何一つ情報が得られなかった。このため、ニコルの母ロミナは、夫を説き伏せて少女を養女として迎え入れることにした。ロミナは、どうしても少女を手放してはならないという直感に従ったのだ。また、ロミナは何故かこの少女が、将来ニコルを守ってくれるのではないかという期待を密かに抱いていたからでもある。
こうして、その少女「惣流・アスカ・ラングレー」は、「アスカ・アマルフィ」として、ニコルの姉となった。
あとがき
筆力が無いので、不定期更新になります。また、設定はあまり厳密なものにはしません。設定に気を取られると、時間がかかるからです。ですから、多少の間違いは笑って許してください。
Red Warrior3 [Red Warrior]
二次小説の多くが完結していないのは、周知の事実です。でも、出来ることなら完結させたい。そうなると、なるべく話を短くした方が良いと考えました。PHASE-35で、アラスカのサイクロプスが始動するので、普通に書くと35話。ここからエヴァの世界に行くと、更に26話。また戻って来ると、更に10話以上。合計で70話以上になってしまい、とてもじゃないけど息が続きません。そこで、本編の2話を1話にするような気持ちで書くこととし、目標はアラスカまでが20話以下。そこからエヴァ世界が20話以下。戻ってきてからは5話以下。合計で40話~50話を目指すことにしました。これでも結構長く、1週間に1話のペースで、1年もかかってしまいます。それでも、とにかく始めてみようと思い、書き始めました。
ところが、最初からその目論見が崩れました。プロローグはしょうがないにしても、その後アニメのPHASE-1に到達する前に、2話ほど費やすことになってしまったのです。これは、アニメの第1話の前に、アスカが何でザフトに入ったのか、説明する必要があると思ったからです。それに加えて、アスラン達の卒業写真にアスカを入れてみようと思い立ったからでもあります。
こうして、ザフトに入った理由はアスランと同じにしました。そう、血のバレンタインです。これを第1話に持ってきました。続いて、卒業写真のエピソードを第2話に持って来ることにしました。
第2話までの構想がまとまったため、次はどこかに投稿するか、ホームページやブログを立ち上げるかどうか迷いましたが、ホームページを立ち上げるのは手間がかかることから、どこかのサイトに投稿することにしました。
私が選んだのは、Arcadiaというサイトです。ここには幾つかのジャンルのSS投稿掲示板があり、そこのエヴァ板に投稿することにしました。エヴァキャラであるアスカが活躍するのですから、エヴァを知らない人が見たら全く面白くないでしょうから、まあ当然でしょう。クロス物について、他世界のキャラが活躍するのはどうかという意見を見たこともあり、迷わず決めました。