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Red Warrior Phase9 [Red Warrior]

Red Warrior in the Seed World  (目次に戻る。
PHASE9 破られた心の壁

紅いジンが爆散する少し前のこと……。

「キラ君!大丈夫なのっ!」

紅いジンから離れたキラの105ダガーに、シンジの乗るデュエルダガーが近付く。少しでも早くキラに近付きたいというシンジの気持ちを表すかのように、デュエルダガーは右手を伸ばす。

「うん、大丈夫だよ。なんともないよ。心配してくれてありがとう、シンジ君」

だが、直ぐにいつもと変わりないキラの声が聞こえ、シンジは胸をなでおろした。

「良かったあ。それじゃあ、追撃はレイさんに任せて、僕達はアークエンジェルに戻ろうよ」

そう言って、ふうっと息を吐いた時、キラがうわずった声で聞いてきた。

「えっ、追撃?あのジンを?どうしてなの?」

キラの問いかけに、シンジは直ぐに答えられずに口ごもる。そして、ついつい思ってもいないことを口走ってしまう。

「どうしてって言っても……。だって、敵だから……」

そこまで言ってから、シンジはいつの間にか戦いに慣れていた自分に気付き、愕然とした。

『敵だから、討つのが当たり前。』そんな言葉が自然に口から出る自分が信じられなかった。モビルスーツに乗るなんて、死んでも嫌だと拒絶した自分が、遥か昔の人に思えた。戦争とは、かくも人を変えるのか。急に背筋が冷たくなる。そんなシンジの心中に気付かず、キラはなおも畳みかける。

「でも、でも!あのジンは、僕達に攻撃してこなかったよね。それなのに、なんで逃げる人を攻撃するの?ねえ、シンジ君。お願いだから、あのジンを攻撃するのを止めさせてよ。レイさんも、シンジ君の頼みなら聞いてくれるかもしれないと思うよ」

キラは、アスランの親友だと言うジンのパイロットを死なせたくなかったのだ。その想いがキラを突き動かし、拳だけでなく言葉にも力がこもる。シンジも、既にキラの声が涙声になっていることから、キラが本気で言ってることひしひしと感じ取れた。

「うん、分かったよ。キラ君がそこまで言うのなら……」

シンジは、僅かな逡巡の後、レイに頼むことを請け負うことにした。シンジは頷くと、急いでレイに通信を入れた。深呼吸をしてから、一気に言う。

「レイさん、聞こえてる?お願いだから、その紅いジンを逃がしてあげてくれないかな」

「駄目。これを逃がしたら、援軍がやって来る。だから、絶対に見逃せない」

信じられないことに、レイは間髪入れずに断ってきた。僅かな期待は、一瞬にして消えた。だが、シンジはなおもレイに食い下がる。

「えっ、ちょっと待ってよ。ねえ、レイさん!」

だが次の瞬間、シンジの願いも虚しく、バスターダガーの激しいビーム砲撃を受けて、紅いジンは爆散した。爆炎が消えた後は、何も残っていなかった。

「ああっ!」

シンジの脳裏に、無残な姿となったであろう敵のパイロットの姿が浮かぶ。

その時突然、シンジの頭の奥底で、何かのヴィジョンがフラッシュバックした。

―――それは、奇妙な白い大きなバケモノ共に食い散らかされた、紅い巨人……………

次の瞬間、シンジは急に吐き気をもよおした。急に背筋が寒くなり、身体が小刻みに震え出し、意識も飛びそうになる。

「イッタイ、アレハナンダロウ……。ナンデ、コンナニイヤナキモチニナルンダロウ……」

蒼白な顔で虚空に向かい問いかけるが、もちろん誰からも返事は無い。シンジは頭を激しく振ることによって、そのヴィジョンを振り払い、正常な思考を取り戻すことに成功した。

「あれは、一体何なの?」

シンジは、何か大切なことを忘れているような気がして、懸命に思い出そうとした。シンジの拳から、唇から、紅い血が流れたが、それすら気付かないほどに。だがその時、突然のキラの声によってシンジの思考は中断する。

「ど、どうして……。逃げる相手を一方的に攻撃するなんて、酷いよ……。そう思うよね、シンジ君」

キラの悲痛な声に、シンジは答えることが出来なかった。

マユラによってジンの片腕を失ったミゲルだが、黄昏の魔弾の異名は伊達ではなく、戦意は全く衰えていない。アストレイ隊を一気に全滅させた勢いを駆って、次のターゲットに襲いかかる。

「ようし、次は奴らだ。いいなっ!」

ディアッカ、イザーク、ラスティの3人にテキパキと指示を出し、ストライクもどき<キラの105ダガー>とデュエルもどき<シンジのデュエルダガー>を包囲しにかかる。すると、狩人から一転して哀れな獲物に成り下がった2機は、とっとと逃げにかかる。

「ハンッ!ナチュラルごときがっ!」

最初にディアッカのバスターが、94mm高エネルギー収束火線ライフルによる強力なビーム砲撃を加えると、敵は回避行動をとらざるを得なくなり、逃げるスピードが僅かに落ちる。その隙にイザークのデュエルとラスティのストライクが左右から近付いていき、射程距離まで近付くや否や続けざまにビーム砲を撃ち込んでいく。敵は応戦せずにシールドをかざして、防戦一方になる。

「ようし、もらったあっ!」

とうとうイザークの放ったビーム、狙い済ました一撃が、デュエルもどきの足を吹き飛ばした。それに気付いたラスティも、負けじと奮起し、ストライクもどきの片腕を、ビーム砲の3連発で吹き飛ばす。

「これで、おあいこっしょっ!」

ラスティはニヤリと笑うが、イザークも負けてはいない。

「ふんっ!何を手こずっているんだっ!」

そう言った次の瞬間、デュエルもどきの片腕も無くなっていた。

シンジの耳に、突然キラの絶叫に近い悲鳴が聞こえてきた。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

敵のストライクの攻撃が、シールドを失った105ダガーを直撃し、105ダガーは吹っ飛んでいたのだ。105ダガーは、両腕から煙を出し、くるくると回転しながら遠ざかっていく。

「大丈夫っ!キラ君っ!」

シンジは105ダガーの方へ近付いていくと同時に、心配して声をかける。だが、返ってきたのは暗く沈んだ悲痛な声。

「駄目だ、両手をやられた……。もう攻撃出来ないよ。それに、今度来られたら防げないよ……」

キラの声は絶望にうちひしがれていた。シンジのデュエルダガーも、片腕しか残っていないうえに両足も吹き飛ばされている。絶体絶命の大ピンチだが、何故か敵のモビルスーツの攻撃は、いったんそこで止まる。二手に別れて2機がいずこか-おそらくレイのバスターダガーの方-へ去り、こっちには残る2機がやって来る。それでも、絶体絶命のピンチには変わらない。

「キラ君、今のうちに逃げてよっ!」

シンジはそう叫ぶと、敵とキラの間に割って入る。敵の主な攻撃は、直線で進むビーム兵器。こうすれば、キラへの攻撃はかなり減るはずとの考えてのこと。

「そ、そんなっ。シンジ君を置いて逃げるなんて……」

このままではシンジは助からない、そう察したキラは動きが鈍くなり、逃げるスピードも落ちる。

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。キラ君が逃げないと、僕だって逃げられないよっ」

「う、うん、分かったよ」

キラは、初めて見るシンジの気迫に押されて、再び逃げ始めた。当然、残るシンジに攻撃が集中する。

「こうなったら、レイさんの言ったこと、信じるしかないよね」

シンジは、最後の手段を使う決心をした。

一方ニコルは、バスターもどき<レイの乗るバスターダガー>を執拗に攻撃していた。

「よくもっ、姉さんをっ!」

ニコルの顔からは、普段の温厚な面影がきれいさっぱり消えていた。目を吊り上げ、阿修羅のような表情になってブリッツを駆るニコル。動きの素早さを主に追求して設計された機体特性を活かし、背中に取り付けられたバーニヤを駆使して、蜂の様に舞うかのような高機動を行い、上下左右前後のあらゆる方向からヒット・アンド・アウエイを繰り返す。ブリッツの右腕に装備されている攻盾システム<トリケロス>は、3連装超高速運動体貫徹弾・ビームライフル・ビームサーベルが一体になったもの。そこから貫徹弾を撃ち、ビーム砲を放ち、時にはバスターに接近してすれ違いざまにビームサーベルで斬りかかるなど、多彩な攻撃を仕掛けてバスターもどきを翻弄する。

「もらったっ!」

こうして僅かに生じた敵の隙をついて、ニコルはビームサーベルでバスターもどきの背中に斬りかかり、バスターもどき最大の武装であるガンランチャーの砲身の一部を削り取る。そして、更なる攻撃を仕掛けて収束火線ライフルも破壊することに成功し、残るバスターもどきの武装はビームサーベルのみとなる。

「姉さんの敵、覚悟!」

ニコルはここぞとばかりに激しく攻め続けた。

+++

「きゃあっ!」

ブリッツの猛攻の前に、バスターダガーの背中に取り付けてあったガンランチャーの砲身がやられ、レイは激しい衝撃に思わず声をあげる。続けて、右手に持っていたライフルも破壊されて、手放した途端に爆散する。これで、ビームサーベル以外の武器は使い物にならなくなる。絶体絶命のピンチに陥ったが、レイの闘志は一向に衰えない。

「……ワタシハ、イカリクンヲマモル……」

その言葉と共に、レイの瞳が紅く輝く。レイが、「ATF」と書かれたボタンを押すと、バスターの左手が機体の前に来る。すると、バスターの左手の甲の部分が開き、そこからオレンジ色のビームシールドが展開される。このビームシールドは、出力が低い関係で攻撃を防御出来ない未完成品なのだが、レイはそのシールドにかぶせるようにして同じオレンジ色のシールド-ATフィールド-を展開した。これで敵にはバスターダガーがATフィールドを展開したように見えるはず。仮にバスターダガーが敵に鹵獲されても、ATフィールド発生のメカニズムは絶対に分からない。こうして、バスターダガーのビームシールドは、堅牢な盾へと変身した。

「これが、私の秘めたる力……」

レイは、ATフィールドの展開と共に反撃に転じた。

+++

「そ、そんな……」

ニコルは、ビームシールドの展開を見て狼狽した。ザフトでは、ビームシールドの開発に着手したばかりであることを知っていたからだ。地球連合は、一体どこまで兵器開発が進んでいるのかと思うと、ニコルの背筋が寒くなる。そのシールドに、ビームも実体弾も通じないことがわかると、ニコルの顔が段々青くなっていく。どんな攻撃をしても、全て八角形のオレンジ色のシールドに防がれて、攻撃が一切通じないのだ。それどころか、敵は反転攻勢にでてきた。今度は、ブリッツが逃げ回るようになってしまう。

「こ、こんなはずでは……」

ニコルは、悔しさのあまり唇を強く噛む。このまま逃げようか、そんな考えが頭をよぎったが、ニコルは首を振ってその考えを振り払う。ニコルの勘と理性は共に、直ぐに撤退すべきだと告げていた。だが……。

「姉さんの敵は、絶対に討つ!」

ニコルの脳裏には、出会った頃からのアスカの顔が、次々と浮かんでいった。

表面上は明るくしていたけれど、一人になると時折浮かべていた寂しそうな表情を。
気が強くてわがままなことも言うけれど、ニコルが困った時に必ず浮かべていた優しそうな笑顔を。
悪いことをする人がいると黙って見過ごせずに、熱血少女と化していた時の生き生きとした表情を。
人一倍負けず嫌いな性格で、負けると必ず浮かべていた悔しそうな表情を。
しっかりとしているようでいて、でもどこか抜けてて、ヘマをした時に浮かべるひょうきんな表情を。
ニコルが大怪我をして苦しんでいた時に浮かべていた、心底心配するような慈愛に満ちた表情を。

ニコルは、そんなアスカがとても大好きだった。ザフトに加わったのも、世界で一番大好きな姉を守るためという理由も大きい。だが、そのアスカをバスターもどきが奪ったのだ。憎い、憎い、憎い。バスターもどきも、そのパイロットも、憎くて憎くてたまらない。こいつを倒せるのならば、例え悪魔に魂を売り渡してもいい、ニコルはそれほど強く敵を憎んだ。ニコルは怒りに身を任せ、勘も理性もかなぐり捨てる。ニコルの心を、ただただ純粋な怒りだけが支配していく。目は血走り、笑顔はその痕跡を消し、阿修羅のような顔になっていく。

「僕は、僕は、お前を絶対に許さないっ!」

ニコルは敵の攻撃をかわすと、大上段に構えてビームサーベルで斬りかかった。だが、敵の左手にあるビームシールドに防がれる。普通ならばここで引くところだが、ニコルはそうしなかった。

「うわあああああああああああああっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!」

雄叫びをあげて、後先考えずに敵に突っ込んでいく。

+++

「……これは、怒り……。そう、彼は怒っているのね……」

レイは、冷や汗を流す。レイの最後の切り札とも言えるATフィールドが、今まさに破られようとしているからだ。ATフィールドは、心の壁。物理的な力だけでは、余程強力なエネルギーが無ければ破るのが困難なはずなのに、どういう訳かたかが1機のモビルスーツの前に破られようとしていた。物理的な力に心の力が加わると、ATフィールドといえども無敵ではないのだろうか。心の力を全く計算に入れていなかったレイは、自らの迂闊さに唇を噛みしめる。ATフィールドを中和出来るのは、同じATフィールドだけ。ATフィールドを破るには、おぼろげな記憶ながらも、クリスタル型の強敵を破った時のように、膨大なエネルギーが必要。そう考えていたレイにとって、今の状況は全くの想定外だ。

「イカリクン……」

レイは、そんな状況においてもなお、シンジの心配をしていた。シンジの機体にも同じ機能があり、つい先程まではそれで万全だと思っていたのだが、そうも言えなくなってしまったからだ。この異世界には、ATフィールドを破るだけの心の力を持った人間が大勢いるのだろうか。レイは、最悪の予感に身震いした。
だが、僅かな時間といえども、敵から気を逸らしたことは致命的なミスだった。

「きゃああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっ!」

ニコルの激しい怒りが、とうとう無敵の盾のはずであるATフィールドを破り、バスターダガーを袈裟懸けにした。レイの心の壁は、無残にも砕け散った。

レイの心配とは裏腹に、シンジの展開したATフィールドは敵を全く寄せつけなかった。

「おい、あれは一体なんなんだよっ!」

ビーム攻撃が全く通じなくなったため、イザークはヒステリックに叫ぶが、聞かれたラスティの方だって分かるはずがない。だが、ラスティには思い当たる節もある。技術畑へ行った同級生から聞きかじった話を思い出して呟く。

「なんでも、ザフトではビームシールドを開発中って話しだ。もしかしたら、奴らの方が先に開発したんじゃないか?」

「そんな、おかしいだろっ!こっちの機体には、そんなものは無いんだぞっ!あっちの方が量産機じゃ無いのかよっ!」

イザークの言うことは尤もなのだが、事実は開発者側にしか分からない。実際は、G兵器は結果的にコーディネーターやエースパイロット用の機体となってしまい、その反省の元に作られているD兵器は一般兵でも扱える機体というコンセプトだ。その意味ではD兵器の方が量産機と言うべきなのだが、アークエンジェルに積まれている機体だけは、ATフィールドを使用しても怪しまれないような仕掛けがしてある。

「今は、そんなことを言っている場合じゃないっしょ。左右から攻めようぜ」

頭に血が上るイザークを、ラスティがたしなめる。そして、右からラスティが、左からイザークが攻める態勢を取る。

「こっちはいいぞっ!」

「じゃあ、攻撃っしょ!」

ラスティの合図で、二人は反対方向から同時にビーム攻撃を行った。どんなに強力な盾でも、片腕しかないデュエルもどきならば、この攻撃で一気にカタが付くはずだった。逃げるストライクもどきを横目に見ながら、次はお前だと心の中で毒づきつつ、イザークはビームライフルのトリガーを引く。デュエルとストライクから、強力なビーム砲がデュエルもどきを襲う。

「やったかっ!」

イザークは身を乗り出す様にモニタを見たが、その表情は一気に失望に染まる。デュエルもどきのビームシールドは、曲面を描いてその身を守っていた。無論、ビーム砲の攻撃は全く通じなかったのだ。

「こりゃあ、お手上げっしょ」

ラスティの言う通り、二人にはもう有効な攻撃手段は残されていなかった。だが、イザークは諦めが悪い。この場を去った仲間を呼び戻そうとする。

「おい、ミゲル!聞いているか?こっちは苦戦しているんだ。戻って来い!」

だが、しばらくして断りの連絡が入った。

「ふざけんなっ!何を考えているんだっ!」

イザークが文句を言ったが、次のミゲルの言葉に沈黙した。

「アスカが見つかったんだ。こっちの方が優先だ」

アスカ発見の報を聞き、ニコルは敵に止めを刺さずに、速攻でガモフへと帰還した。そして、ミゲルやディアッカを押し退けて、医務室のベッドで意識を失っているアスカに力のかぎり呼びかけた。

「姉さん!返事をしてよ、姉さん!」

ニコルが何度も呼びかけた成果か、アスカはゆっくりと目を覚ました。

「どうしたのよ、ニコル……。何で泣いているの?」

「えっ……」

ニコルは、その時初めて自分が泣いていることに気付いた。

「大丈夫よ。軽い酸素欠乏症になっているだけ。発見が早かったから、一日眠れば元気になるわよ」

ニコルを元気付けようとしたのか、アスカは弱々しい笑みを浮かべる。

「良かった、本当に良かった……」

ニコルは、その場に膝をついた。

その後、息を切らしてやって来たイザークとラスティは、涙で顔をくしゃくしゃにしたニコルを目撃することになる。

次回

あとがき

やはり、主人公のアスカは助かりました。アークエンジェルに捕まるという展開も考えたんですが、それだと主人公が活躍しないのでやめました。
次回またはその次から、アスカが活躍します(多分……)。


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